389.5話(2)クヴェレSaid 王女様はやんちゃ姫らしい
「王女様はどこに行かれたの…?」
「それが、今探しに行っているのですが、今のところ見つけられていなくて…」
俺がセレーネギアに連れていかれた時、仕えるべき主はどこかに消えていて、セレーネギアで、すでに仕えていた使用人たちは大慌てだった。
部屋の中にいた使用人も俺を置いて部屋から出て行く。
これじゃあ、挨拶どころじゃ無いだろうな。
「すごいお騒がせな王女様だな…」
「それって、私の事かしら?」
いきなり声が聞こえてきて驚き、声が聞こえた方へと向く。
そこには、窓の縁にチラッと顔を出して、部屋の中をのぞく女の子がいた。
そして、窓をよじ登り、部屋の中へと入ってくる。
部屋の中に入ってきた子は、俺より少し背が低い。
服はドロドロとしていて、所々、裾を引きずった跡もある。
年齢的には、同じくらい…?
「そういえば、今日新しい使用人が来ると言ってたわね…あなた?」
もしかして、この人が王女様…?
こんな窓から部屋の中に入ってくる子が?
いや、そうじゃないとしても、挨拶はしないといけないだろうな。
「初めまして。私は、雫の一族から来ました、クヴェレ・カスカータです。」
「私は、トリウェア・フォルモントよ。そう…あなたが私の新しい遊び相手ね?」
遊び相手?
「それって一体どういうこ…」
「王女様!」
俺の質問は、部屋の中に勢いよく入ってきた先ほどの使用人にさえぎられてしまった。
「王女様、お戻りになられていたのですね。」
「うん!時間に間に合わなくてごめんね?」
「王女様が無事であれば、大丈夫です。」
使用人の女性に、洋服の汚れや顔についた汚れを大人しく拭われている。
「ねえねえ、この子が私の新しいお友達でしょ?」
「そうですよ、王女様。」
「そう…」
使用人の女性に綺麗に拭いてもらい、そして俺の方に王女様は寄ってきた。
「貴方は、私の遊び相手兼使用人。お近づきの印に、これを見せてあげるわ。」
王女様は、そっと手を差し出して来たので、王女様でも使用人と握手をするのかと思いつつ、手を出す。
そして、むにゅっとした感覚が手に触れた。
むにゅ…?
そして、ゴソゴソと手の中で動く何か…
ちょっと…待って…?
この感覚もしかして。
「今、捕まえてきたのよ。貴方にも見せてあげるわ。」
そして、手をそっと開くと、手の中でウゴウゴと這いずり回る八本の足を持った蜘蛛が目に入った。
どうすればいいのか分からず、手を開いたまま、その場で固まる。
「どう?今日の収穫は?大きい獲物を捕まえたと思うのよね。そう思わない?」
この王女様は、一体何の話をしているのだろうか?
この蜘蛛が今日の収穫?
「王女様は、少しお転婆な所があるので、貴方に王女様のことをお任せするわ。」
遊び相手ってそういう事ですか…
話を聞く限りだと、王女様があまりにもやんちゃなため、同い年くらいの令嬢たちだと相手にならないらしく、同い年くらいの男を遊び相手にしようとしたと…
そして、その遊び相手に選ばれたのが、俺だと言う事だろう。
…はっきり言うが、俺も虫が得意な訳ではない。
むしろ、手の感覚があまりにもしっかり感じてしまったため、動けなくなっていただけだ。
そうかぁ…虫を捕まえて喜ぶ王女様かぁ…
「貴方、なかなか見どころがあるわね。虫を見せて叫ばなかった人は、貴方が初めてよ。気に入ったわ!」
俺の想いとは、全く別に王女様はとても喜んでいた。
虫をみせて、相手が驚くことが分かっているのなら、なぜ見せる??
「さぁ、着いてきなさい。私の使用人になるのだから、私もあなたのことを世話する責任があるわ。セレーネギア内を案内してあげる。」
王女様は俺の手を取り、そのまま引っ張って部屋を出る。
「私の秘密の遊び場にも案内してあげるわ。」
俺の方を振り向いて楽しそうに笑う王女様。
「改めて、トリウェアよ。これからよろしくね。クヴェレ。」
「…よろしくお願いします。トリウェア王女殿下。」
そうして、俺がこの王女に振り回される使用人生活が始まるのだった。
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