383話 シン王子はクヴェレ殿下にそっくりでした
「こちらが、コスモス観光部を取り仕切るアスガル・ビルロストです。」
私がアスガルさんを手のひらで示すと、クヴェレ殿下はさらに笑顔を濃くした。
「なるほど。チヒロさんとネロ君の上司の方なんだね。」
この人、今の状況を楽しんでいるなぁ。
ニコニコが止まらないもの。
アスガルさんは、自分も名乗ろうとしたのにスッと手でクヴェレ殿下に制されてしまったため困惑気味だ。
クヴェレ殿下からすると、挨拶をされてお辞儀でもされたら、正体がバレかねないから制するしかなかったのだろうけど。
アスガルさん、困惑の理由は、今からこの方を紹介すれば分かると思いますので…
「アスガルさん。こちらがですね。プティテーラの王配殿下クヴェレ・フォルモント様です。」
「お!?」
声を出しそうになったアスガルさんは、スッと自分の手を口元に持っていった。
慌てていても優雅さは忘れないのね…
さすが、いろんな人を相手して来てるため、見られていると言うことは常に意識しているのだろう。
さすがである。
そして、スッと私の方を見てきた。
目は口より物を言うとはよく言ったもので、アスガルさんは、説明を求めると目で語っていた。
私も紹介を終えて、クヴェレ殿下の方へと顔を向ける。
「アスガルさん、今回コスモスのゲートを開いていただいた事、感謝しています。」
「光栄です。この度は、王子殿下のご婚約おめでとうございます。こうして招待していただけること、嬉しく思います。」
「さすが、コスモスの方ですね。配慮、感謝します。」
アスガルさん、対応もそうだし、臨機応変さもそうだし…本当にさすがだ。
アスガルさんじゃなかったら、クヴェレ殿下に迷惑をかける事案になったかもしれないな。
まぁ、クヴェレ殿下が紹介を求めなければ、もっと良かったような気がするけど、それを見越して紹介を促していたとか?
まぁ、私としては紹介を促された時点で、紹介をしないと言う選択肢がない訳だけど。
「あの、クヴェレ殿下?それで、ここには本当に何を?」
相手がクヴェレ殿下だとバレたため、アスガルさんの厳しいマナーチャックが入る。
アスガルさんは、じっと微笑みながら私を見ているのだ。
やめて、その顔されると、プレッシャーがかかってとちりそう。
「先ほども言ったけど、お礼をしに来たんだよ。」
百パーセント嘘ではないだろうけど、まぁ、嘘だろうな。
「アスガルさん。」
「はい?」
「頼みたいことがあるんだけど、いいかな?」
このタイミングで、クヴェレ殿下が、アスガルさんに頼み事?
え、なんだろう?
「はい。なんでしょうか?」
「チヒロさんとネロ君を少しお借りしてもいいかい?」
「はい?」
はい?
なぜ、ここで私たちを借りる?
「それからもう一つ。リオとリカを頼みたい。少しやんちゃな所があるもので、目を離すのはどうかと思うんだ。だから、この二人を私が借りている間、リカとリオのことを見ていてもらいたい。頼んでもいいかな?」
ダメでしょ。
この殿下もめちゃくちゃだった。
出会ってすぐの人に自分の甥っ子と姪っ子を預けるんじゃありません。
「あの一応、初対面なので、お二人をお預かりするのは…」
「あぁ、周りに見張りもいますし、そこは安心してください。」
いや、安心してくださいって、アスガルさんが悪い人だったらどうするのだろうか。
可愛い甥っ子と姪っ子が誘拐されますけど?
「いや…そういう事ではなくて…」
「アスガルさんが、甥っ子たちに危害を加えるとは思っていませんよ。無防備な状態でチヒロさんとネロ君にアスガルさんのことを紹介していただきましたし、身分もお名前も分かっています。それに外交を開いたばかりで、お互いトラブルがあった場合は、利益にならない。それに、コスモスは、相手世界を脅かして、自分の要求を通る世界だと思われれば、今後、コスモスで世界を開くことはなくなるでしょう。コスモスという世界は、相手に与える印象が大事な世界ですからね。」
私たちに、アスガルさんを紹介させたところから、そんなことを考えていたんですか?
凄いを通り越して、怖いんですけど。
それに、コスモスが印象を大事にすると言うのは、本当だろう。
交渉ごとにおいて、第一印象は大事だ。
それに、コスモスがなくても、世界を開く方法としてアルスという存在がある。
アルスにその十八番を持っていかれるわけには、いかないだろう。
ましてや、観光部部長なんて言う立場に着いているアスガルさんなら、なおさら。
「一応、ナンナルを護衛に呼ばせるので、もし二人の世話があまりにも大変なら、押し付けていただいて、大丈夫ですから。」
「いや…あの…」
アスガルさん的には、そういう事もそうだが、預かること自体、気が重いのだろう。
何かあったら、アスガルさん大変なことになるし。
案に、クヴェレ殿下は、アスガルさんを優しく脅している。
「リカ、リオ。チヒロさんとネロ君の知り合いの方が、二人と遊んでくれるって。だから、ご迷惑を掛けない様にしてね。」
「分かったわ。」
「チヒロとネロの知り合い…」
そんなことは関係ないと言った風に、クヴェレ殿下はグイグイと話を進め、リカちゃんとリオ君の説得まで終えている。
「それでは、この二人借りていきますね。」
そして、段取りを整えて、リカちゃんとリオ君をアスガルさんに任せて、私たちを別の場所へと引っ張っていったのである。
私は、思いだした。
そう言えば、そうだった…
この人は、シン王子のお父様だと。
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