377話 騒ぎは騒ぎを呼ぶらしい
ネロとガルガル言い合っていると、当然頭に衝撃を感じた。
いたぁぁぁぁ。
頭の上から、なにか鈍器が落ちてきたような感覚。
頭を押さえつつ、ゆっくりと衝撃を感じた方を見ると、にっこりと微笑む淑女、デウィスリ夫人。
「なにをやっているのかしら?」
「あひゃひゃひゃ」
「…ふふ…ぷっ…」
そして、デウィスリ夫人の横には、大爆笑をしているメルと顔を背け口元を押さえて、おそらく笑っているであろうビスクートさんがいた。
メル…一世界の王女とは思えない大爆笑ぶりだよ…
「それで、何の騒ぎなの?これは。」
プンプンと怒った、デウィスリ夫人。
あれ?
というか…この頭の痛みは本当に何だろう。
デウィスリ夫人が、手を出すとは思えないし、何が起きたか全く分からないんだけど。
「デウィスリ夫人のげんこつ…痛いだろ。」
こそりとクラト公子が私に耳打ちをしてくれる。
あ、デウィスリ夫人でしたか。
「それで何の騒ぎなのかしら?」
「あ、それは、ブラーさんが突然攻め込んで来まして。」
「おい。」
いやいや、間違ったこと言っていないって。
「僕は、なんか知らないけど、目をぎらつかせた人たちから追われる羽目になったので、チヒロに話を聞きに来たまでです。」
この人、意外と理性的だぞ?
「あぁ、あの恋愛のボトルの…確かに、恋愛と聞くと途端に目の色を変える人たちは、一定層いるものよ。それを華麗に捌き切ってこそのプティテーラの商売人なんだから。」
「あぁ、それでブラーに話を聞きに来た人たちは、あんなハンターみたいな目をしていたんだな。」
やっぱりハンターだったんだ。
恋愛ハンター。
「いい顧客が付きそうですね。」
「…いやいや。怖いから。」
「ブラーさん。前も言いましたけどお、恋愛って狂気と紙一重ですから。そういう人たちを相手取るんです。頑張ってください、ブラーさん。」
これで話が逸れるでしょ。
「説明が途中で面倒くさくなって、最後に僕に丸投げした…とかではないよね?」
違います…違う…
そう、違う…
じっと見つめてくる、ブラーさんの目をそっと逸らしつつ、思わず苦笑い。
最後は、ブラーさんに任せとけば、いいかー…って思ってました。
「まぁ、二人には感謝している。本当に広告塔になってくれると思わなかったし、二人のおかげで僕らの所に話を聞きに来てくれる人も増えた。だから、ありがとう。」
…ここにきて、お礼を言われてしまった。
なんだか、申し訳なくなるじゃないか。
「いやいや。こんな素敵なドレスを用意していただいたので。ねぇ、ネロ。」
「…そうだな。」
ネロ、もう余計なことを言わなくていいからね。
「ねぇ、こっちから、ブラー様のにおいがしない?」
「そういえば、ブラー様の声が聞こえたような気がする。」
「ここにいるらしい。探して、捕えろ。」
「吐かせなくては…」
そして、奥から不穏な声が聞こえてきた。
先ほどの、ブラーさんを探すハンターたち。
まだ諦めていなかったのね。
ブラーさんの方を見ると、ブラーさんも顔を引きつらせている。
「言いたいことは、もっとあるんだけど、取りあえず、二人とも本当にありがとう。また、火の街に遊びに来てよ。それから、また一緒にモノづくりしよう。」
「ブラーさん…」
「こっちにいる気配がする。」
「匂いが…」
「ブラー様、待っていてくださいね。必ず捕えて見せますから。」
ハンターたちの声を聴き、顔を引きつらせてクラト公子を盾にする。
「じゃあ、ここにいるともうじき見つかりそうだし、僕は逃げるから。またね、チヒロ。ネロ。」
そうして、ブラーさんが去った後、ハンターさんは限りなく近くに来ていたようで、逃げ出すタイミングが遅ければ、捕まっていたかもしれない。
というか、ブラーさんを追うハンターたちって、本当に令嬢令息?
匂いを追ってくるとか、発言内容も、行動の仕方も、あまりにも怖すぎるんですけど。
「じゃあ、ブラーが心配だし、俺も行くわ。俺からも。チヒロとネロ、本当に助かった。ありがとう。デウィスリ夫人。騒がしくしてすみませんでした。また、改めて挨拶に伺いますね。」
「クラトちゃんも、マナーはしっかりとしないと、またお説教タイムだからね。」
「善処します。」
そうして、ブラーさんを追って、クラト公子も去って行った。
「チヒロ。」
忘れていた。
私は、この人の存在をすっかり忘れていた。
「あはは…なんだか、賑やかでしたね…アスガルさん。」
「今のは?」
「え?えっと、今のはたまたま…こう…騒がしくてですね…」
「どなただと聞いている。」
どなた?
どなた?って、あの二人が誰かという事?
そういえば、伝えてなかったな。
こういう時って、正式に伝えた方がいいのかな?
「あの先に去った男の方が、火の一族のナール侯爵家のブラーさんと、火の一族当主のアリファン侯爵家のクラト公子です。」
「は?侯爵家?」
「はい。侯爵家ですけど…あ、間違っても、ご迷惑になるようなことは、何もしていませんから。」
「ほう…」
アスガルさん、なんで黙っているの。
怖いって。
「今、絶賛迷惑をかけていただろう。」
「ネロ!あれは、お手伝いの末じゃん。あんなハンターみたいな人達がブラーさんの元に向かうとは思わないでしょ。もう、メルはいつまで笑っているの。」
「ごめん、ごめん。相変わらず、チヒロ節が炸裂していたから、面白くて。」
それは、褒められているのかな?
「これは、何の騒ぎなの?」
騒ぎは騒ぎを呼ぶみたい。
まぁ、だいぶ賑やかだったけどさ。
「ナンナル王子…いらっしゃったんですね…」
「やっぱり、チヒロとネロがここにいたんだ。」
その認識は、やめて欲しい。
ナンナル王子は、腰に手を当てて、呆れた顔をしてこちらを見ていた。
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