375話 にっこりと笑う上司は、恐ろしい
メルたちと観光に行くのはいいけど、私とネロはプティテーラにコスモス職員として、仕事で来ている。
「そういえば、コスモスからもプティテーラに来てるんだね。さっき挨拶したんだけどさ。だから、コスモスの代表がチヒロ達って聞いたとき驚いたんだよね。」
「え?コスモスから、誰が来てるの?」
え、誰が来ているんだろう。
まぁ、私には関係がないし…と思いながら、レベーロルチェを口に運ぶ。
口の中でゆっくりと味わい、さっぱりとした炭酸ののど越しが、またたまらない。
そして、恐怖は唐突に来た。
「やあ、チヒロ、ネロ。元気にしていたかい?」
なんだか聞き覚えのある声がしたような…?
気のせいかな?
「ずいぶん楽しそうにしているみたいだけど、お仕事は順調?」
…気のせいだよね。
この声は、気のせい。
こんなに優しい口調なのに、雰囲気が全然優しくない声は気のせいということに…
「連絡がないと、僕、悲しいんだけどなぁ?」
私は、恐る恐る後ろを振り返り、聞き覚えのある声の主の名を呼ぶ。
「アスガルさん…お久しぶりですね。」
「アスガルがこっちに来ていたのか。」
振り向いてみたアスガルさんの顔は、にっこりと笑い、口元をひくひくとさせ、全く目が笑っていないという恐怖の顔をしていた。
「あ、先ほどぶりですね。ちょうどアスガルさんの話をしていたんですよ。」
私の恐怖など関係なしに、メルはニコニコとしながらアスガルさんを会話の中に入れる。
「メルーレ王女、ビスクート殿下、またお会いできて光栄です。」
「チヒロとアスガルさんって、お知り合いだったんですね。あ、でもそうか。観光部の部長ということは、アスガルさんは、チヒロとネロの上司という事ですね。」
のほほんというメルに、私は冷や汗だらだらである。
なんで、この人こんなに怒っているの?
別に私、悪いことしていない気がするんだけど。
「はい。今回、プティテーラの仕事を依頼したのも、私ですね。」
そうだった。
ここに来た理由が、この人だった。
「もしかして、チヒロ達に何か用ですか?だったら、私と叔父さんは、コンジェラルチェを選びに行ってくるので、少しの間だけ、チヒロとネロを譲りますよ。」
譲らなくていいよ。
怖いもん。
「お気遣いありがとうございます。メルーレ王女、ビスクート殿下。」
「いいえ。じゃあ、行ってくるね。チヒロ。」
行かなくていいよ。
コンジェラルチェは、こっちに持って来てくれるんだし…と心の中で言ったところで、メルに通じることはなく、そのままメルとビスクートさんは、デウィスリ夫人の方へと歩いて行ってしまった。
「それで?チヒロ。長らく連絡がなかったけど、仕事は順調なのかな?」
「…連絡?連絡ってなんだっけ?」
「さぁ?」
私とネロは首を傾げて、アスガルさんの方を見ると、アスガルさんの眉間がぴくぴくと動く。
「外交パーティーの仕事を頼んだと思うけど、その報告が来ていないんだけど。」
「…報告。外交パーティの報告ってどこにするべきだったんですか?」
「端末を渡してあるんだから、それに送ればいいだろう。外交パーティが終わって、しばらく経つのに連絡が来ないから、どうかしたのかと思ったじゃないか。」
そうか。
本来は、外交パーティで終わりだったのか。
「でも、企画宣伝課の方の仕事がまだ終わってなかったので、帰れませんでしたけど。」
「だから、無事完了したことくらい、連絡入れてもいいだろう。」
それもそうだわ。
ミシュティでは、帰ってから全部報告書を上げていたから、途中で報告すると言うことが頭からすっぽ抜けていた。
「ネロも教えてくれればよかったのに。」
「俺は、ちゃんと報告していたからな。」
えぇ?
「私に内緒で?」
「内緒も何もないだろ。」
この猫、裏切りおって。
「あれ?でもネロが報告してくれていたのなら、私の話も伝わっているのでは?」
「ネロが最低限、外交パーティに行った…って一言しかくれないから、チヒロの方から何かあると思ったんだよね、僕。」
ネロ、それは報告とは言わなくない?
「まぁ、元気そうにやっているみたいで、いいけど。実際、仕事は順調なのかい?」
「そうですね。プティテーラのことは、だいぶ知ることが出来たんじゃないでしょうか?」
「それで?」
それで?って…
「棚ぼたは、あったのかい?」
棚ぼたって…
別にそう言う感じではないけど…
いろんな人と知りあうことが出来たよね。
「そうですね。いろんな…」
「ちょっと、チヒロ!」
私が、アスガルさんにそう告げようとしたとき、誰かの声にさえぎられる。
「…ブラーさんとクラト公子。」
ブラーさんは、ちょっと焦りながら私の方に突進してきて、クラト公子は後ろで苦笑い。
なにこれ?
どういうこと?
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