372話 私の異世界での初めては…
思わず声をかけてしまったけど、甘いものを必死に食べている様子を見られてしまった。
座り込んだまま、メルとビスクートさんの方を見上げる。
二人は、目を大きく開けて、私とネロを見ていた。
じっと見つめた後に、二人の口元がゆるゆると緩んでいく。
「あははは…久しぶりだね、チヒロ。もしかして絶賛、胃もたれ中?」
「その顔、懐かしいな。ミシュティでは、たまにその顔をしていたな。」
「それに、ネロはいい食べっぷり。また私たちの世界においでよ。サービスするよ?」
「グラース兄さんや、姉さんも会いたがっているし。メル、どうする?俺たちがプティテーラでチヒロとネロに会ったなんていったら、グラース兄さんたち機嫌が悪くなるんじゃない?」
おいおい。
私が胃もたれで苦しんでいる時に、笑うなんてなにごと?
…相変わらず、元気そうで良かったです。
「久しぶりだね、メル。それにビスクートさんも。」
「元気そうだな。」
ネロも食べるのをやめて、ふわりと浮き上がりビスクートさんの前へと飛び上がる。
「ネロもまたミシュティにおいで。食べ放題付けるよ?」
「行こう。」
こらこら。
食べ物につられるんじゃありません。
「それにしても、メルたちは、なんでここに?」
「それは、こっちのセリフだよ。チヒロ達がいて、びっくりしちゃった。」
「俺たちは、プティテーラの外交と次期王の婚約を見に来たんだ。異世界転送装置がプティテーラに繋がったことにより、コスモスがゲートを繋いでいる世界には、招待状が出されたみたい。ミシュティにも、コスモスの通知と、プティテーラへの招待状が届いたし。」
コスモスから来る要人って、メルたちのことだったんだ。
ただ、メルたちの言うには、コスモスのゲートを通って、いろんな異世界が招待されたことになる。
「そんなことより、チヒロだよ。そんなにオシャレな格好をして。社交界デビューでもしたの?」
「いやいや、私とネロは仕事だよ。コスモス職員としての仕事で招待されてるの。」
「えぇ?次期王の婚約パーティに参加するのが仕事なの?」
「他にも、お手伝いすることがあったり、好意に甘えさせてもらっている部分は、あるけど、ちゃんと仕事をしに来てるよ。」
「そっちがメインだったりして。」
鋭い。
パーティに参加して今まで、コスモス職員としての仕事は、何一つ果たしていない気がする。
クラト公子の依頼をこなし、ブラーさんの仕事を手伝い、そして今は、デウィスリ夫人のお手伝い。
「あれ?私って観光職員だよね?」
「何、言ってるんだ?大丈夫か?」
そもそも、メルやビスクートさんと異世界で出来た友人ということで、親しくなりすぎて忘れていたが、メルもビスクートさんもれっきとした王族だ…
私が来るよりも、メルやビスクートさんが来た方がこういうパーティは自然なはずだ。
「ねぇ、チヒロ。プティテーラには滞在して長いの?」
「え?そうだな。いろいろあったし、そろそろ半月くらいになるのかな?」
「えぇぇぇ?」
なぜ、そんなに驚く?
「なんで、なんで?ミシュティには、そんなに滞在してなかったじゃん。やっぱりもう一度、ミシュティにおいでよ。今度はちゃんと案内するからさ。」
「前回もだいぶ案内してもらったし。ミシュティにも結構滞在していたって。」
「半月もいなかったよね?」
それは確かにそう。
半月はいなかったかもなぁ。
「まぁ、いいよ。チヒロの異世界での友達は私だし、初旅行はミシュティでしょ?チヒロの初めては貰ったんだからね。」
「メル?何を言ってるの?」
「おじさんだって、そう思うでしょ?」
メルは口を膨らませながら、ビスクートさんに話を振る。
ビスクートさんは、キョトンとした後にっこりと笑う。
「そうだね。」
「おい…」
「いやいや、俺は同意を求められたから、同意しただけだから。」
「王族として、それはどうなんだ?」
ネロがビスクートさんにツッコミを入れている光景。
そして、メルのわがまま娘ぶり。
懐かしいわ。
読んでいただき、ありがとうございます!
よろしければ、
評価、ブックマーク、感想等いただけると
嬉しいです!
よろしくお願いします!