370話 クラト公子、依頼は完了しましたから
そうだ…
「このボトルは、私とこの猫さんのお揃いだから、渡すことが出来ないんですけど、代わりに、これをどうぞ。」
鞄に詰め込んだブラーさんのボトルの中から、ボトルの形に凝った二つのボトルを取り出し、男の子の手に乗せる。
ブラーさんが、めちゃくちゃ苦労したと言って、最後まで買取を渋っていたものだったのだけれど、お願いをして、何とか譲ってもらったものだ。
ガラスの小瓶が、クマの形をしている瓶。
中身は、ピンクと深い藍色が混じり合った銀河の色。
「え?いいの?」
「はい。おかげで、大切なものを無くさないで済みましたから。ありがとうございます。」
大切なものをなくさずに済んだし、こんなに大勢の人たちに興味を持ってもらうこともできた。
男の子の手の上に乗っているボトルを見て、女の子が何も言わずにじっとしている。
「君にもどうぞ。」
「え…?でも、私は何もしていないわ。」
「いいえ。男の子に声をかけるように伝えてくれました。それがとても助かりました。なので、この男の子とお揃いになるんだけど、よかったら受け取ってくれませんか?」
「お揃い…?リオと?うん、ありがとう。」
はぁぁ…いい笑顔。
「あのね。僕、リオって言うんだ。」
「私は、リカ。お姉さん、ありがとう。」
リオ君とリカちゃん。
「いえいえ。こちらこそ、本当にありがとうございました。」
そうして、小さい子どもたちは、深いお辞儀をし、手を振って人混みから去って行った。
「二人の相手をありがとう。」
「いえいえ。本当に私たちが助けられてしまったんです。もう少し何かお礼をしたいくらいには。」
「そう?なら、次に会った時に、また話し相手になってあげて欲しいわ。チヒロちゃんの話をあんなに楽しそうに聞いていたんだもの。」
「あはは…それは、とても光栄です。」
いや、会う機会あるかな?
格式高いお家柄の子たちだと思うんだけど。
去り際も丁寧なお辞儀をしてくれたし。
あのお辞儀って、私が女王様にやったものと一緒だよね?
「綺麗な所作だったな。」
「ネロもそう思った?私も、思った。ここにいる時点で、貴族の娘さんとか息子さんだとは思うけど。」
「あら、二人とも、あの子たちが誰だか知らないの?」
知らないのって?
そんなに有名な家の子たちなの?
「知りませんが…何か問題がありましたか?」
「いえ、そんなことないわ。それにしても、このボトル本当に綺麗ね。夜空を詰め込んだボトル…納得だわ。」
「デウィスリ夫人にそう言ってもらえると、なんだか嬉しいですね。」
「あら、うまいこと言っちゃって。この人だかりを利用して、営業トークを始めてしまったくせに。」
あ、バレてましたか。
そうだよね。
そりゃバレるよね。
「もしかして、転んだのも何か考えが?」
ニヤニヤと楽しそうに笑うデウィスリ夫人に、私は全力で首を振った。
「ち、違います。転んだのも、ボトルを落としてしまったのも、たまたまです。本気でボトルをなくしたと思って、焦ったんですから。」
「ふふ、冗談よ。」
心臓に悪い冗談はやめてください。
棚ぼた…とは、思ったけれど、人の敷地内で話を説明し終えた時、冷や汗がちょっと出たから。
「私もこのボトル、見に行ってみようかしらね。」
「本当ですか?」
「ええ。だって、恋するボトルなんでしょ?ロマンチックで素敵じゃない。」
デウィスリ夫人が興味を持ってくれたのであれば、私の仕事はもう終了じゃない?
「それに、今日のチヒロちゃんのドレスとネロ君の衣装も素敵。これは、どこの物?」
アピさん。
やりました。
私はついにやりましたよ。
「このドレスも、火の街のお店です。コロロヴァードという糸を扱っているお店で、そこで服を作ってもらいました。」
「じゃあ、その髪や首についている物は?」
ブラーさん。
またもや、私はやりました。
「これは、ミルキーウェイと同じ職人さんです。ブラーさんが作ってくれました。」
「へぇ、ブラーって火の一族でしょ?若い職人なのに、さすがこういう場に合うものが分かっているわね。」
デウィスリ夫人は、私がこんなに、火の街の職人たちによって仕上げられていることを知り、そして先ほどのことで、私たちがしたいことを理解したみたいだった。
そして、さりげなく、人だかりにデウィスリ夫人の声で伝えてくれる。
人だかりは、若い火の街の職人たちに興味を持ち始めた。
いや…凄い凄いとは思っていたけど…
デウィスリ夫人の影響力改めて、凄さを実感する。
デウィスリ夫人の言葉一つで、こうも変わるとは。
「なにかしら?」
「デウィスリ夫人の凄さを実感しています。」
「何を言っているのかしら?いい物をいいと言っただけよ?だって、私もいい物が欲しいわ。だから、いい物を作る職人とは、仲良くしたいものよ?あ、そうだ。いい物を紹介してくれたお礼に、コンジェラルチェをプレゼントしちゃう。」
そういって、おそらく冷凍庫からコンジェラルチェを二つ取り出して、ネロと私に手渡ししてくれた。
貰ったコンジェラルチェを受け取り、それを見つめる。
完敗です。
デウィスリ夫人、カッコ良すぎ。
あ、最後に言っておきたいことがあるんだった。
「そういえば、ネロ。ブラーさんって、もうこのパーティに着いているんだっけ?」
「あ…?あぁ、さっきその辺で見かけた気がするが。」
「そっか!」
私がブラーさんの話を出すと、人だかりの何人かが、さっとどこかに消えて行った。
きっと、ブラーさんの所に行ってくれたんだろう。
「最後の最後まで…私はチヒロちゃんの凄さを実感したわ。」
「夫人。性格が悪いと言っても構いませんよ。」
「ちょっと、ネロ。私の意図を理解したのなら、ネロも同じだと思います。」
「はいはい。ケンカしないの。」
私とネロは、人だかりの中、何とか仕事をし終えた。
そして、ネロと睨み合う中、デウィスリ夫人に言い合いを止められるのだった。
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