363話 してやられたので、協力しようと思います
ここに来るのも何度目か。
正直、ここに来るたびに、何か大きなことが巻き起こっていたなぁ。
一度目は、シン王子とアルビナ令嬢の修羅場の目撃。
二度目は、クラト公子とアルビナ令嬢の婚約発表時に、シン王子が乱入。
そして、三度目。
「そうやって物思いにふけていると、何か起こるぞ?」
「やめて。セレーネギアで起こる出来事は、大抵がハプニングだから。」
「はは…」
その乾いた笑いも、フラグになるかもしれない…
大広間には、既に多くの人たちが集まっていた。
会場内は、丸いテーブルがいくつも設置されており、壁際には、飲み物や間食が置かれている。
門や入口通路に置かれていたリボンや花の飾りが、会場内には施されていた。
高い天井からは、白やピンクのリボンが緩く弛ませるように飾られている。
机には、布で作ったバラの飾りがしており、さりげないところまで本当におしゃれだ。
「これさ、私たちが広告塔をしなくても、火の街には仕事がたくさん舞い込む気がするんだけど…」
「奇遇だな。俺もそう思う。」
だよね。
この会場設営、絶対に火の街の職人が手伝っているよね。
この布も触ったことがあるなぁと思ったら、絶対にコロロヴァードだし。
アピさんも会場作りを手伝ったってことだよね?
それとも、アピさんではない、他の誰かがやったのだろうか?
それにしても、火の街の職人が関わっていることには、変わりがないと思うけど。
この規模の会場作りを、この短時間に作り上げたのであれば、しっかりとした司令塔と、仕事の早い職人がいたに決まっている。
しっかりした司令塔が、シン王子かアルビナ令嬢かは知らないけど、仕事の早い職人は、絶対に火の街の人たちだろう。
机の飾り方一つとっても、センスがいいんだよなぁ。
「おーい。」
ん?
なんか声が聞こえた気がするけど…
「おーい。チヒロ。」
声のする方を向いてみると、そこにはナンナル王子がいた。
「ナンナル王子。脅かさないでください。」
「えぇ…そんなつもり全然なかったんだけど。」
すみません。
あまりにも装飾や会場の見た目に夢中になっていました。
「あまりにも熱心に机を見つめていたから、何事かと思ったよ?」
「いえ、この机…というより、会場の装飾って、火の街の人たちがお手伝いしたのかなって。」
「おぉ。良く知っているね。そうだよ。」
やっぱり。
アピさんもブラーさんも、テールさんもアゲルさんも活躍したんだろうな。
「これって、コロロヴァードですよね。」
「正解。火の街の職人って、本当にすごい技術を持っているよね。」
「私がお世話になった人も手伝っているのかなって思ったら、なんだかソワソワしてしまいました。」
「へぇ、誰?」
私が火の街で関わった人たちの名前を言うと、ナンナル王子は考えるようにして、首を振った。
「その人たちは、名前になかった気がするな。あと、ブラーも関わってなかったと思う。」
な、なんで?
「火の街から派遣されてきた人は、多くが大ベテランと言われている年配の方が多かったから、若い人は殆どいなかったと思うけど。」
火の街全体には、仕事が来たし、王子と令嬢の婚約パーティに関わったとなれば、今後も仕事が増えるだろう。
でも、それは、ベテランさんたちだけ…
なら、若い職人さんたちは、よりきつくなる。
…もしかして、それで私に広告塔になれと言ってきたってこと?
婚約パーティに関わることが叶わなかったが、それでも、このパーティで衣装や装飾品が誰かしらの目に触れるチャンスを求めたと言うことだ。
ブラーさんの新商品に、ちょっと協力しただけなのに、広告塔になれとか…おかしいと思ったんだよね。
アピさんに至っては、ただ買い物しただけだし。
本人たちが身に着けてアピールするのもいいけど、他の人が身に着けることによって、人が買うに至るものだとアピールが出来る。
「やられた…」
「はは、案外、職人と言っても、人を動かすのもうまいのかもな。」
「いや、これはクラト公子が、策を授けたに一票。」
「それは、間違いない。」
アピさん、可愛い顔して意外とやるな。
クラト公子を使って、贈り物を断れなくした理由がこんな所にあったなんて。
「で?どうするんだ?」
「そういうことなら、せっかくドレス一式を受け取ったことだし、ちょっと仕事をしてあげようかな?」
「そう言うと思った。」
ネロと二人でニヤリと笑う。
「ちょっと、二人とも何の話?」
ナンナル王子が、何の話か分からず首を傾げている。
やば…放置してしまっていた。
「いえ、こっちの話ですよ。」
「いや…何か企んでいる顔だよね。」
何のことでしょう?とナンナル王子に向かって、にっこりと笑った。
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