361話 宣伝大使?お断りしたいですね
「おぉ…本当に器用だな。」
ネロが作り上げた私の髪型は、サイドから髪型を編み込み、最終的に一つに束ね、束ねた三つ編みを後頭部の後ろで固定する、三つ編みの冠みたいな髪型だった。
ブラーさんから貰ったパステルグリーンの石がはめ込まれたバレッタは、最後に後頭部で束ねる時に使用された。
「せっかく肩が出ているドレスのデザインだからな。髪の毛は全部上げた方がいいだろ。」
クラト公子は、そういう事が言いたかったわけではないと思うんだけど。
でも、ネロに任せて、正解だね。
これなら、一応、広告塔として最低限の役割は果たせるだろう。
私は謙虚なのだ。
異世界の人たちと見た目で勝負するのは、無理すぎる。
でも、整えて貰えば、ある程度見れるようにはなるでしょ?
メイクは、魔法の鎧。
「さて、二人の準備もできたことだし、会場に向かうとしますか。」
あれ?
クラト公子は、着替えなくてもいいのかな?
「俺は、この上を脱げば、大丈夫だから。」
クラト公子は、上着を着ている裾の所をペラりとめくって、中をちらりと見せてくれた。
確かに、上着の下は、既にフォーマルな格好になっている。
準備してから、ここに寄ってくれたと言うことだよね。
しかも荷物を任されて。
「そうだったんですね。クラト公子、ありがとうございます。」
「お礼を言うのは、まだ早い。しっかり、火の街ために働いてくれよ。火の街宣伝大使に任命してもいいぜ?」
うわ…
「是非ともお断りしたい案件ですね。」
「そこは引き受けろよ。」
嫌だよ。
私には荷が重いって。
歩く広告塔だって荷が重すぎて、私が主役でもないのに吐きそうなんだから。
「まぁ、いつの間にか、宣伝大使になっているかもしれないけどな。」
恐ろしいことを言わないでください。
「早く、パーティに行かないと遅刻してしまいます。さぁ、行きましょう。」
「話を逸らしたな。」
「チヒロは、都合が悪いと、話をすり替えるからな。」
ネロ…
何を言っているのかしら?
そういうことは、言わなくていいんです。
ここには、敵しかいないのか?
「よし、揶揄うのは、ここまでにして、行くか。」
「発表は、セレーネギアで行われるんですよね?」
部屋の戸締りをして、宿泊施設を出る。
「あぁ。シンの庭だけあって、気合入れていたからなぁ。楽しみにしておけよ。」
ニッカリと笑うクラト公子に、私は苦笑いである。
いえ、街の様子を見る限り、本会場は凄いことになっているんだろうな…と思っています。
二人の成り行きを見守ってきた身としては、微笑ましいけど、シン王子もアルビナ令嬢も吹っ切れたとたんに、凄い大胆なんだから。
…いや、大胆さは、元々か。
「よし、ちゃんと来ているな。」
水路の方を見ると、宿泊施設の前には、水馬車が停めてある。
水馬車…
「水馬車で行くんですか?」
「あぁ、これの方が早いし、快適だろ?」
そうなんですけど、乗り込むときと降りるとき、ものすごく目立つんですよね…とは、言いにくいな。
せっかく用意してくれているし。
「広告塔なんだから、目立ってなんぼだろ?たくさん目立てよ。」
それに、この公子ったら、水馬車に乗ることで目立つのを嫌がっていることを、しっかり分かっている。
「目立つのは、得意じゃないんですって…」
「大丈夫だ。外交パーティに来ていた奴は、みんなチヒロとネロのことを何かしらの形で知っているから。盛大に転んでいたし、女王にケンカを売っていたし。」
盛大に転んだのは、クラト公子のせいだし、女王様にケンカなんて売っていない。
ちょっと、意地を張って対抗しただけだ。
それに、しっかりトリウェア女王にいなされたし。
「嫌な覚えられ方ですね…」
「大丈夫だって。挽回していけよ。」
挽回をしないといけないような存在を、広告塔に起用しないでください。
「何もないよりもいいだろ?記憶に残ることは難しいことなんだから。」
分からなくもないけど…
出来るならば、いい記憶の残り方をしていてほしかったものだ。
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