359話 歩く広告塔?
「さて、婚約発表のパーティは昼からだ。いまだに寝起きのところ悪いが、外に出る準備を頼む。」
「え?お昼?夜じゃなくて?」
いつも夜からのパーティだったから、今回もそうだと思っていたんだけど。
「チヒロ、招待状、ちゃんと見たか?」
「…見ました。」
「なぜ嘘をつくんだ…その反応は見てないな?」
いや、貰ったことに満足して…
日付も口頭で伝えられてたし…
いや、中は見た気がする。
でも、時間だけは見た記憶がないなぁ…
「急いで準備しないといけないね…」
危うく遅刻するところだったという訳だ。
クラト公子が来ていなかったら、やばかったなぁ。
グッジョブ、クラト公子。
「それから、これをアピとファイ、こっちをブラーから預かってきた。」
アピさんとファイさん?
それに、ブラーさんまで。
「それにしても、大きい荷物ですね。」
「あいつらは、俺のことを配達人だとでも思っているのか?容赦なく、荷物を俺に押し付けてくるんだよな。」
思っているんでしょうね。
クラト公子がここに来ることは分かっているんでしょうから。
それにしても、なんだろう。
大きな段ボール箱を目の前に、首を傾げる。
「開けて見たらどうだ?」
「そうだね。」
ここで、びっくり箱で、中から何かが飛び出してく仕様だった場合、立ち直れないからやめてほしい。
ブラーさんなら、やりそうだし。
恐る恐る、箱を開ける。
中から飛び出してくる気配はなし。
「うわぁ…」
「おぉ…」
箱を開けると、パステルグリーンのドレスと靴、アクセサリーが入っていた。
パステルグリーンのドレスはフォーマルだが、大人過ぎない。
スタンドネックのオフショルダーにAラインの変形スカート。
袖が波打つようにドレープがかかっていて、しなやかさがある。
靴は、ドレスとおそろいのパステルグリーンで、ヒールのついたストラップパンプス。
そして、バックも、ドレスと同じ色のポシェット。
アクセサリーも、パステルグリーンの石をはめ込んだ、ネックレスとバレッタ、それからピアスとブレスレット…一式揃っている。
「あの…これはいったい…?」
「アピとブラーが押し付けてきたと思ったら、中身はこれか。」
これは、なんだ?
受け取れと?
この高そうなドレスと、アクセサリーの数々を?
無理。
「そこに何か入っている。」
顔を青ざめていると、クラト公子が箱の中を指さす。
まだ何かあるの?
…手紙?
箱の隅に封筒が引っかかっている。
「読んでみた方がいいんじゃないか?」
手紙をもらったのなら、そうだよね。
どういう意図で、これを送って来たのかもわからないし。
私は、びっくり箱よりも慎重にその手紙を開けた。
なになに?
『チヒロさん、ネロさん。
ドレスは届いたでしょうか?
ブラーさんと一緒に、コーディネートしたので、安心してください。
ドレスと靴は、私とファイからで、アクセサリー一式はブラーさんからになります。
是非、婚約パーティに着て行ってくださいね。
アピ』
「ええぇ?」
「なんだ?」
「いや、これを着てけと…」
アピさんの手紙を読み、顔を引きつらせる。
ん?
封筒の中に、もう一通手紙があるんだけど…
これは、もしかして。
『ドレス一式は届いた?
手紙を読んでいると言うことは、クラトが無事に届けてくれたということだよね。
それを着て、そのアクセサリーを付けて、シン王子とアルビナ嬢の婚約発表パーティに出ること。
異論は認めないから。
別に好意でこんなことをしている訳じゃないから。
仮にも僕やアピの店の広告塔を担っているんだから、ダサい恰好をしていったら許さない。外交パーティの時のドレスは、悪くなかったけど、同じものを着回されても困るしね。
仕方ないから、ドレスとアクセサリーをこっちで選ぶことにした。
一緒に入っている鞄には、例のボトルを付けられるから、絶対に付けて行ってね。
僕も会場には行くから、ちゃんとドレスを着てなかったら、ぶん殴るからよろしく。
P・S
チヒロが言ったんだよ。
注目を集めている人が宣伝したら、爆発的に広がる可能性があるって。
そういうことだから、僕の店とアピの店をしっかり宣伝すること。
歩く広告塔として、しっかり働いてもらうから。
ブラー』
私は、二枚の手紙をそっと閉じた。
アピさんはともかく、ブラーさん…
ちょっと、プレッシャーをかけすぎではありませんか?
「へぇ…広告塔ね。頑張れよ。」
ネロは、にやにやと笑いながら、私の肩をポンポンと叩いている。
この猫、他人事だと思って。
「ちなみに、ネロにも預かってきている。良かったな。」
そして、ネロもクラト公子の言葉にビシリと固まる。
箱を開けると、私とおそろいの色の猫用スーツと猫用のアクセサリーが入っていた。
スーツもすごいけど、アクセサリーが凄すぎる。
細かすぎ…
私は、アピさんとブラーさんの職人魂を垣間見た気がした。
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