352話 千紫万紅
「お、ここら辺がいいんじゃないか?」
「世界を覆う滝に着いたんですか?」
「いーや、まだ。」
じゃあ、何がいいんだろう?
「気球の中にいないで、外を眺めて見ろって。」
まだ目的地じゃないんだよね?
「いいから。」
クラト公子に促され、私とネロは立ち上がり、気球から外を見る。
「うわぁ…」
「おぉ…」
気球から眺める景色は、一面がモフモフとした綿に覆われていた。
色とりどりの綿。
地上に雲が浮いているみたい。
「もしかして、これって、天然のコロロヴァード…ですか?」
「正解。見たかったんだろ?」
見たかった。
心を映す植物。
アピさんの繊維のお店で出会った変わった植物。
心を癒したり、お守り効果があるとされる、変わった植物。
「こんな風に、なっていたんですね。」
「天然の場合はな。」
一面が綿の絨毯のように、永遠に広がっているようにさえ見える。
「これをアピさんが管理しているんですか?」
「いや、一応、火の職人たちで管理している。まぁ、繊維を材料に選んだアピの店が、こだわりを持って管理しているがな。」
「育てる物の心が反映するとなると、職人さんが世話するのは、理にかなっていますね。」
心のコントロールにより、コロロヴァードは、色を変えると言っていたのだから。
いろんな種類の色があるみたいだけど、原色というよりは、薄く着色したようなものが多いな。
「天然素材は、人の手があまり入っていないからな。自然で綺麗な色が出ているだろ?」
「はい。アピさんのお店で売っているものは、もっと色濃い物もあったんですけど、ここに生えているものは、少し色が薄いですね。」
「あっちに生えているものは、濃いぞ。」
クラト公子が指す方を見ると、色鮮やかな綿が見える。
「本当だ。あっちの方が色が濃いですね。」
「アクアルテの水は、魔力が多く含まれているが、それに触れた植物たちも多大な影響を受ける。ここら辺に生えているコロロヴァードよりも、向こうにあるコロロヴァードの方が、魔力の含有量が多いんだ。」
魔力が多い方が、色濃く出ると言う事かな?
「魔力が多いほど、いいコロロヴァードなんですか?」
「いや、そうでもないな。魔力が多いと言うことは、本来のコロロヴァードに不純なものが混ざっているのと同じだからな。コロロヴァードが純粋なほど、色が薄い。魔力が多く含まれている方がいいと言う人もいるが、純粋さを求める客もいると言う事さ。」
魔水魚は、魔力が多く含まれている方がおいしいと言っていたけど、多く含まれてればいいという訳ではないんだなぁ。
「そもそも、魔力は、生物ならば、なにでも持ち合わせているものだろ?魔力イコール生命力。ならば、本来持っている生命力に、強力な魔力を後入れしているのと一緒だろ?本来持っている純粋な植物とは、違っているという考え方は普通にある訳だ。」
納得。
「だけど、環境によって培った魔力は、その生物の物という考え方もあってな。一概にどっちがいいかと決められないんだよ。」
それにも、納得かな。
「というわけで、このナトゥラにおいて、魔力を保有しているモノが、優秀であり、いい物という訳ではないんだ。コロロヴァード以外にも、ナトゥラに影響を受けて、他の生物よりも魔力の含有量が多い生物は、いるしな。」
「なるほどな。なんだか、魔力を保有している人間たちにも言えそうな議論だな。」
「まさにその通りだ。」
ネロのズバッと切り込む言葉に、盛大に笑いながら答えるクラト公子。
「まぁ、俺は、どっちのコロロヴァードも綺麗だと思うし、アピもそれは分かっているから、販売員として、うまくやってくれている。もちろん、他の職人たちも。人間には、そうも言っていられないけど。」
クラト公子も苦労していると言うことだ。
良いと思うものは、人それぞれでいいと思うけど。
その人にとっては、価値あるものだと思うし。
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