350話 シン王子の被害者の会?
ナトゥラの案内所に着き、中へと入る。
「いらっしゃい…って、お前らか。」
受付で雑誌を読んでいたラックさんが、扉の音で顔を上げる。
そして、私たちの顔を見て、苦笑した。
いい笑顔で迎えてくれたのに、なぜ苦笑…?
対応の差を感じます。
「お久しぶりです。ラックさん。」
「久しぶりだな。ラック。」
久しぶりと言っても、そこまで時間が経っている訳じゃないんだけど。
「久しぶりと言っても、五日ぶりくらいじゃないか?そんなだろ?」
最後にラックさんに会ったのは、アルビナ令嬢がシン王子から逃げたという騒動の時だっけ?
五日を久しぶりと言えるくらいに、この五日間も密度が濃かったからなぁ。
「邪魔するぞ。」
「え?クラト公子?なぜ、ここに?」
私の後ろから、観光案内所に入ってきたクラト公子を見て、ギョッとした顔をする。
クラト公子は、そんなラックさんの顔を見るのが、楽しそうだけど。
「お前たちは、毎回大物をここに連れてくるな…」
あはは…
確かに、ラックさんに会いに来る時って、シン王子に連れられてきたり、アルビナ令嬢を追いかけて来たり、そして、今回はクラト公子を連れて来たり…
確かに大物を連れてきてはいるな…
「故意という訳では、ないんですよ?」
「チヒロの故意だったら、それこそ怖いからやめてくれ。」
まぁ、一公共施設に、世界の重要人物を何人も連れて来ているわけだしね。
…なんか、悪い女になった気分だぞ?
「今回は、俺がシンにこの二人の案内を頼まれているんだよ。シンは今、忙しいからね。」
「あぁ…なるほど。」
クラト公子が補足するように、ラックさんに告げると、疲れた顔で納得した。
「なんか疲れていますね?」
「シンとアルビナ嬢の婚約パーティの準備が大詰めだからな…」
「そう言えば、ラックもシンに駆り出されている一人だったな。婚約発表の時は、地獄だったと聞いたぞ。」
「あぁ、あの発表な…本当に大変だった。」
婚約発表って、世界中に飛行船で伝えた、派手な発表のことだよね。
「やっぱり、あの発表の仕組み、ラックさんが関わっていたんですね。」
「派手だったな。」
ネロの言う通り、派手だったなぁ。
シン王子もアルビナ令嬢も楽しそうだったから、別にいいけどね。
「あぁ…アルビナ嬢と謎の男の噂をかき消すには、派手な発表じゃないとダメだと言うことになってな。ただの発表が、世界中に知らしめる発表になったってわけだ。そのおかげで、俺は、寝不足だったんだけどな。」
よく見ると、ラックさんの目の下にクマがある。
「ここにいると言うことは、ラックの仕事も終わったと言う事か?」
「まさかですよ。婚約発表の機材を準備した後は、婚約パーティの準備…そして、婚約パーティの準備がひと段落して、やっと帰れるかと思いきや、シンがナトゥラの新プランを始めると言い出してだな…ナトゥラのエリア開放に追われていたんだよ…」
容赦ないな…シン王子。
「そして、新プランの案も出来て、ようやくゆっくりできると思って、観光案内所で休憩中という訳だ。」
ラックさん…
観光案内所にいる限り、ラックさんに休みはないのでは…?
ラックさんの本来の仕事が、観光案内人なのだから。
本来の仕事から、かけ離れた仕事をし過ぎて、感覚がバグっていますよ?
「ラック…お前も大変だな…」
「公子もシンに振り回されている口ですか?公子もご愁傷さまです。」
シン王子の被害者の会かな?
「それで、公子は、チヒロとネロを連れて、観光案内所に何か御用だったのでしょうか?」
「俺が連れてきたわけじゃないさ。あくまで、俺は案内人で、行き先は二人に任せているしね。」
「そうでしたか。それで?チヒロとネロは、何しにここへ?」
ここまで仕事に忙殺されているとは思わなかったけど…
「えっと…私たち、ナトゥラに行こうと思っていてですね…」
「ナトゥラに?もしかして…」
「はい、そのもしかして…ですね。」
仕事増やしちゃうよねぇ。
すみません。
「あぁ…そうか…気球を借りに来たんだよな?」
ゲソッとした笑顔が返ってくる。
「…よろしくお願いします。」
「いやいや…これも仕事だからな…今気球を出してくる。外に出ていてくれ。」
そう言いながら、フラフラと奥へ引っ込んでいった。
ラックさん…大丈夫かな?
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