345話 朝早くの訪問はデフォルトですか?
そして、朝。
けたたましく鳴り響く呼び鈴によって、私とネロは起こされたのである。
うう…眠いのに…
「誰…?ネロ、出て来て。」
「は…もう少し待ってもらえばいいだろ…」
寝起きのまま出たくない私とネロは、接待をする役を互いに押し付け合う。
もう少し待ってもらいたいのは、山々なんだけど、それをすると多分クレームが来る。
そのくらい、呼び鈴があまりにもうるさい。
「仕方ない…出るか…」
「そのまま接待したら失礼だそ?」
では、どうしろと?
このまま待たせるのは、失礼なうえに、周りに迷惑だけど?
「しょうがないな…俺が出てやろう。」
初めからそうしてくれると、ありがたかったんだけど…
「じゃあ、ネロに頼んだ。私は、取りあえず人前に出られる格好になってくるから。」
「あぁ…少しでもマシになってくるといいぞ。」
はい、失礼。
寝起きなんて、どいつもこいつも寝汚いものでしょ。
人間の三大欲求の睡眠という欲をつかさどっているのだから。
でも、ここでネロの相手をしていると、支度が進まないため、ネロの頬をグイッと引っ張って、そのまま洗面台の方に向かった。
ネロも、頬を撫でながら、ドアの方に向かってくれてるし、何とかなるでしょ。
誰が来たかも大体予想が付いているし。
支度を整え、洗面所からで出ると、やはりと言った感じで、ブラーさんとクラト公子が部屋の中にいた。
クラト公子、これで何回目の訪問ですか…?
「おぉ、チヒロ。おはよう。いい朝だな。」
「うわ、いかにも寝起きって感じだね。」
クラト公子…いい朝だったんですけど、呼び鈴に起こされて寝起きは、あまり良くないです。
そして、ブラーさん。
一応、身支度を整えてきた乙女に対して、寝起きというのはやめましょう。
「おはようございます。クラト公子、ブラーさん。」
それでも文句が言えないのは、昨日作った物をわざわざ二人は届けに来てくれたから。
明日中とは言っていたけれど、こんなに早く来るとは思わなかった。
「持ってきたものは、そこに置いておいたから。」
「持ってくるときに、傷なんてつけていないと思うけど、中身を一応確認しておいてよね。」
机のわきに置いてある段ボール。
その中を覗き込むと、丁寧に緩衝材に包んで、しまわれているドームアートたち。
おお、サービスいいな。
作り終わって思ったんだけど、ガラスのプレゼントをここまでたくさん作ったのは、ちょっと計画性がないよね。
割れてしまうということが、頭から抜け落ちていたと言うか。
「一応緩衝材で包んではあるけど、僕の所のガラスは、そう簡単に割れないから安心して。」
「そうなんですか?」
「魔力操作によって、割れにくいガラスにしてあるんだよ。」
なるほど。
ここにきても、万能な魔力。
「運んでもらえて、助かりました。ありがとうございました。」
「別に、チヒロとネロじゃ絶対に持ち帰るのが無理そうだったから、仕方なくね。僕の店のドームアートが壊れるのは嫌だし。」
本当に感謝します。
「そう言えば、昨日あの後に、アピさんのお店に寄ったんですけど。アピさん、ボトルのこと気にしていましたよ。」
「え?それホント?」
「はい。売り物ですか?とか、いつ発売になりますか?とか聞かれたので、もしかしたらブラーさんの所にも、聞きに行ってくれるかもしれませんね。」
昨日の様子なら、ブラーさんに直接、問い合わせてくれるだろう。
「そう。」
「良かったな。ブラー。」
「…うん。これで、ばあさんにも喜んでもらえる。」
嬉しそうに、うにゅっと笑うブラーさん。
そっか。
おばあさんとの思い出だもんね…
こう思うと、お手伝いできてよかったなぁ。
「ブラー。おばあさんには、いつ会いに行って報告するんだ?」
「そうだね。王子と令嬢の婚約パーティには、顔を出すだろうし、その時に、ばあさんには渡そうかな。」
「ついでに家族の分も作って、身に着けて貰えよ。宣伝になるかもよ。」
「なるほど。そうしようかな。」
うんうん。
うん…
…うん?
「今、なんと?」
何か重要なことを聞き流した気がする。
「え?だから、家族にボトルを作って、宣伝に協力してもらおうって…」
「その前です!」
「その前は…ばあさんに婚約パーティの時に会いに行って、話をしようって言ったけど?」
…ブラーさんのおばあ様って、まだご存命なのかよ。
いや、別に生きていることが悪い訳じゃないよ?
そうじゃない。
ブラーさんの、あんなおばあ様語りを聞いたら、もう亡くなっているんだろうなって思うでしょ。
ブラーさんは、確かにそんなこと一言も言っていなかったけど。
「なに?」
「いえ…」
「何を考えている訳?」
…逃がしてくれませんか?
じっと見つめてくるブラーさんに、これはダメだと思った。
「いえ…ブラーさんのおばあ様は、てっきり亡くなっているものだと勘違いをしていまして…」
「はぁ?何言っているの?勝手に人のばあさんを殺さないでくれる?」
ごもっともです。
私の早とちりかよ。
申し訳ない。
「あはは…ブラーのおばあさんは、まだまだ現役。すごい元気だよ。」
…そうなんだ。
それは、よかったですね。
頭を下げていたものを上げると、たまたま、ネロが目に入る。
ネロは、口元を押さえて、真顔で顔を逸らした。
ネロもそう思っていたんだね…
やっぱりそう思ったよね。
私だけじゃないよね…
自分の勘違いとはいえ、衝撃的な事実を知り、すっかりと目が覚めた私であった。
読んでいただき、ありがとうございます!
よろしければ、
評価、ブックマーク、感想等いただけると
嬉しいです!
よろしくお願いします!