341話 夜空に願いを込めて
「七夕の女性と男性は、離れ離れになります。そもそも恋愛においてずっと一緒なんてことはないでしょ?それぞれの生活がありますし。」
「それは確かに。」
織姫と彦星は、怠惰で物理的な距離が離れてしまったとはいえ、現実でも実際ずっと一緒にいることなど不可能なのだ。
お互いの仕事や、生活、家庭環境。
「離れると言っても、七夕のように離れなくても、いろんな事情で離れることになります。一緒に住んでいようが、仕事があれば、その時間は離れていると一緒ですし。」
「それでも、家に帰ってくれば、会えるよね?」
キョトンとした顔で、その言葉を告げるブラーさん。
「ブラーさん…本当にそう思いますか?」
「な、なに?」
「本当に自分の好きな人が明日…いや一時間後…一分後…一秒後。必ず自分の横にいると思っているのですか?自分のもとに必ず帰ってくると思いますか?」
必ず、なんてない。
人の心は、不変ではなく、常に移り変わるものだから。
「そう言われると、必ずとは言えないけど…」
「人は、変わることを望みながらも、不変を心のどこかで求めています。だから、何の確証もないけれど、約束という言葉で形を作ります。形があると、目に見えて安心できるから。」
ネックレスやブレスレットが枷と言うのは、あながち間違いじゃないと思う。
美しい物に覆い隠された、目に見えた縛り。
自分があげた物を付けてくれると言う安心感。
そうやって、目に見える鎖で繋ぎとめる。
「だから、伝説とはいえ、七夕の男女の不変は、ある意味すごいことですよ?一年も会わず、相手のことを想い続け、また相手を想い続けながら一年を過ごすのだから。」
「そう言われると、狂気だな…」
そうそう。
恋愛とは、狂気と紙一重でしょ?
「それで、どうやって売っていくつもりなんだ?」
いち早く、狂気ショックから抜け出したネロが、話を戻してくれる。
「月の約束は、プロポーズ…婚約の時につかうものでしょ?だったら、このブラーさんのボトルは、告白の時に使うのはどうかな?好きな相手に渡す、星空のボトルとして。」
「インパクトはあるな。」
「それでも、ボトルを渡すと言うことは、先ほどの、想いは繋がっている事と、あまり関係がないんじゃないか?」
ボトルを渡すだけだと、まだ不十分。
「そうです。なので、ボトルを二本一対で売るんです。」
「二本、一対?」
「そう、つまりセット売りですね。結婚指輪とかもそうなんですけど、指輪が二つ並べられて売られていることが多いんです。つまり、おそろいという奴です。」
おそろいという言葉の魔力はすさまじい。
ペアルック…半分こ。
そういう事が、好きな人も多いよね。
「ちょっと待って。僕のボトルは、同じものは作れない。作り方を二人には伝えてなかったけど、色を混ぜ合わせて作るこのボトルは、同じようなものはできても、全く同じものはできないんだ。」
ちょっとだけ、そうかなとは思っていた。
そもそも、ハンドメイド品は、同じように見えても、全く同じものではない。
そこが手作りのいいところ、なのだから。
「そこは心配しなくても、大丈夫です。」
「え?」
「例えば、チャーム付けるのはどうでしょう?おなじ形のチャーム。ボトルの中身が少し違っていても、セットで売っていれば、ニコイチに見えるでしょ?」
私は、紙とペンをブラーさんから貰い、そこにハートのチャームを書いてみる。
「それだと、チャームの種類が被った場合、二本一対感がなくならないか?」
「じゃあ、チャームを二つに分けて、合わせると一つの形になるものを作るとか?」
私の世界では、めちゃくちゃ流行っていた。
ハートを真ん中で二つに割り、二人で合わせるとハートの形になるキーホルダーが。
まぁ、ハートが割れているから、ダメじゃんという人もいたけど。
ハートを二人で半分こしている一心同体だと言う人もいた。
「確かにそれなら、ニコイチ感が出るな。」
「チャームの分け方を考えれば、割れてしまったとは思わないだろうし。」
お?
意外と高評価か?
「そう言えば、とても気になったんだが。さっきの七夕?といったが、あれはどこが夜空と関係していたんだ?」
「あの話の全てが空の話です。夜空に大きな星の川があって、その星の川を挟んで、女性、織姫と男性、彦星がいました。一年に一度、星の川を渡り、織姫と彦星は出会うんです。その星の川…星の集合体が、このボトルの中で混じり合うラメと色にとても似ていて、その話を思い出しました。」
輝くラメの集合体
色が混じる曖昧な模様。
「なるほどな…星の川か…」
「星の川…納得だな。」
永遠の約束なんてないけれど、それでも永遠という響きに惹かれるのだろう。
目に見える確かなものとして、このボトルが残るのなら、恋する人たちの心の支えになる事はできるんじゃないかな。
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