338話 夜空のボトルの価値創造
「結婚指輪にダイヤモンドを選んだ理由。それはダイヤモンドが良く採れるからと言われています。」
「え?話を聞く限り、結婚指輪というのは、一生に一度の物だよね?よく採れると言うことは、珍しくないってことだろ?なんで、そんなものを素材として選んだのさ。それに、大して珍しくもない物を、プレゼントとして渡す意味も分からない。」
そうそう。
全くその通りである。
でも、そこは頭がいい人たちがいたということだ。
「そこは、企業の腕の見せ所でしょう?ダイヤモンドという宝石をより美しく、魅力的に見せるために取った方法が、あるんです。それが、石のキャッチコピー。今ではすごく有名なんですけど…」
「キャッチコピー?なんだそれ?」
「石を分かりやすく、大衆に伝えるための一言でしょうか?それが、ダイヤモンドは永遠の輝き…だそうです。その名の通り、ダイヤモンドってすごく綺麗なんですけど…ダイヤモンドという素材に価値を見出すのではなく、ダイヤモンドという存在に意味を持たせるんです。永遠の愛の証明として、ダイヤモンドの指輪が結婚指輪として使われるようになったらしいです。」
そこからは、芋づる式に、指輪を渡すイコール、ダイヤモンドの指輪を渡すというイメージに持っていけるようになったのだから、イメージ戦略って、はまると凄まじいよね。
「そして、指輪を二回渡す理由なんですけど…企業側からすると、より売れるからなんじゃないでしょうか?」
「えっと…それって、婚約指輪と結婚指輪は、売り手側が考えたことだと言いたいわけ?」
そこまでは言っていないけど。
「どちらが初めかは、分かりません。サプライズプロポーズで、大きい宝石のリングを渡したい…でも、日常使いには不便。だから買い手側、二つのリングを分けたと言うのは、本当だと思います。けど、売り手側からしたら、二回買ってもらった方が、儲かると言うのも本当でしょ?どちらかが…というのは、ないんじゃないでしょうか?」
ロマンチックな理由の裏に、生々しい事情が隠れていることもあるでしょう。
そもそも、儲からないと企業としてやっていけないわけだし。
その生々しい部分が、ロマンチックという言葉で隠されているだけで。
「要するに、素材そのものが問題なのではなく、その素材に価値を生み出すのは、売り手側の努力次第ということです。」
「やっと話が戻って来たな…」
ホントだよ。
説明するにしても、ここまでが長かった。
文化の壁かなぁ?
それとも私の説明が下手だったのだろうか?
私の学生知識ならば、こんなもんか…?
「ブラーさんが、素材も時間も大したことがない、そのボトルをどう売るかが問題なのです。なので、私は、ブラーさんにそのボトルは売っても大丈夫ですか?と聞いたんです。」
本人に売る気がなければ、価値の創造など出来たもんじゃないし。
「なるほどね。僕のボトルに意味を持たせる…納得した。」
「俺も納得。それで、どんな意味を持たせる?」
そうだなぁ。
意味を持たせるなら、自然であり、露骨じゃない方がいいと思う。
露骨だと、生々しい部分がどうしても顔を出すから。
生々しい部分を綺麗に覆い隠す、ロマンチックなベールが必要だ。
「意味の持たせ方は、いろいろあるんですが…一番ポピュラーなものは、その土地の歴史や、物語に絡めると言うものでしょうか…プティテーラなら、月の約束とか…」
「それはいいかもしれないが、月の約束はあまりにも神聖視さえている。下手にいじるのは、難しくないか?」
だよねぇ…
一歩間違えると、これまた露骨になってしまう。
あまりに有名な所に引っ付くと、良く思わない人たちは一定層いるのも事実。
「ならば、物語を作りますか?第二の物語として。」
結婚指輪イコールダイヤモンドのような、素敵な話を。