336話 価値を生み出す方法は一つではないらしい
「安っぽく見えない様にするって言ってもなぁ。いい職人たちは、安い物を安いと判断する目ぐらい持ち合わせているんだけど?」
怪訝そうな顔をしているブラーさんにクスリと笑う。
さすがは、職人さん。
素材が大事なことをよく分かっている。
でも、それはあくまで、その商品がいい物かどうかとは関係がない。
「確かに素材は大切ですけど、売れる物イコール素材がいいという式は、成り立たないんですよ。」
「どういうこと?」
「うーん…そうですね。例えばですけど、いい素材を手に入れても、それを加工する職人の能力が低ければ、どうでしょう?」
ブラーさんの眉間のしわがより一層深くなっていく。
「それは、素材をダメにすることになるけど…ちょっと。僕の腕が悪いって言いたいわけ?」
怒るのは、当然なんだけど、言いたいところはそこではないので、怒りをおさめて欲しい。
「違いますよ。でも、売れる物イコール素材というのは間違いだと言う事は分かりますよね。じゃあ、ここでの価値は何だと思いますか?」
眉間のしわは消えていないけど、私の話にはしっかり耳を傾けてくれている。
それは、良かった。
ここからの話、感情的になられては、話が進まないのだ。
なんせ、すごーーーーーく、頭を使うことになるのだから。
私の質問の意図は、分からないなりにしっかり考えてくれているブラーさん。
それだけ、本気なんだろう。
さっきの話を聞いて、思ったけれど。
さて、答えは出るだろうか?
「職人の腕だな。」
すると、ブラーさんの後ろで同じく頭をひねっていたクラト公子がぼそりと言う。
おぉ…
「さすがですね。その通りです。ここで言う価値というものは、職人の腕になります。その人の実績がそのまま価値にプラスされるんです。この人なら、いい物を作るだろう。この人の商品なら間違いがない。そう言った価値。ネームバリュー。作り手は、商品の価値を上げるための一種になります。」
「だけど、ブラーにはそう言った実績はない。確かにブラーの腕はいいかもしれないが、それを大衆が認識しているかどうかは、別ではないか?」
それも正解。
クラト公子、さすが火の街を背負っているだけのことはある。
クラト公子も職人気質だと思ってはいたけど、しっかり商売人としての知識も入っているんだと見える。
まぁ、実際、私もお店を開いたことがある訳ではないし、勉強してきたことを知識として持っているだけだから、人のこと言えないけど。
知識を提供するくらいなら、大丈夫でしょ。
「その通り。先ほどは商品の価値を高めるための一種にすぎません。そして、今のブラーさんには、向かないんですけど…」
「なら、なぜ言ったの?」
「商品の価値を上げるためには、いろんな手段があることを頭に入れておくのは、マイナスではないでしょ?それに、ネームバリューというものは、あくまで価値を上げるだけのものというのを覚えておくことは、大切なことですよ。」
それに、そのうち有名になって、ネームバリューが付いたら、嫌でも思う事だろうし。
そして、ネームバリューというのが、あくまで価値を上げるための一種だと言うことを覚えておいてほしいし。
名前が売れて、その後沈んでいくパータンは、どの業界でも結構あるみたいだから。
「それに、ブラーさんの中では、素材が結構重要なポイントになっていたので、素材が全てではないことを分かってもらいたくてですね…」
それに素材が良くて、職人が良くても、売れないときは全く売れないし。
これだから、人間の心理というものは、訳が分からなくて、面白いんだけど。
そう言う訳の分からない部分に、理由を付けてくれた昔の学者たちには、感謝しないといけないだろう。
そう言えば…誰かが言っていたなぁ。
一番身近にある未開の土地は、人間の脳の中だと。
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