32話 お見送りは、照れくさい
目を開けると自分の部屋のベッド。
そして、ベッドの上にページを広げたままの古代の本。
寝落ちしたんだ。
昨日、話を語り継ぐ、語り部の男の子、ユオと出会って、異世界の話を聞いた。
魔力の溢れる大きな樹。
気になり、コスモスの図書館に行って、辞書を借りようと思ったのだが、旅行でしばらく帰って来れなくなるし、返せないかもしれないと断念。
時間になるまで、調べながら読んだ結果、ユオが話してくれた、原初の樹についての話以外に分かったことはない。
一日、使って読み解けたのが、ユオが話してくれたところって…
そうブツブツといったが、読み直してみると面白いもので、何か読み解けることはないのかと同じ文章を何度も読んでいた、結果、寝落ちしたんだと思う。
ん…?
ちょっと待って、私こんなことしてていいのか?
ベッドの上に寝そべって、昨日のことを思い出していた時、デバイスから音が鳴った。
音に驚いて、デバイスを掴み、画面を見ると、部屋を出る時間を告げるアラーム。
旅行に行く前に、いったんオフィス集合になっていたため、早めに設定したんだった。
やばい
急いで、自分の部屋着から服を着替え、荷物をひっつかんで、部屋を出てオフィスに向かった。
集合時間は、ギリギリ間に合ったが、すでにみんないて、待たせてしまっていた。
「すみません」
「遅い」
うっ…
言い返したいけど、待たせてたのは、本当だから言い返せない。
「遅れてないから、平気よ」
「ありがとうございます」
「初めての仕事だと思うけど、気負わず楽しんできてね」
フェリシアさん!
もう好き!!
「それから、これを一応、渡しておこうと思って」
そう言って、アルバートさんの手のひらに置かれていたものは…
石?
すごくキラキラした透き通る灰色の石。
「マナ・ストーンといってね。魔力を封じ込めた石なんだけど、もしものために、お守りだと思って持っておいて。」
お守り…
「とはいっても、ミシュティは危険な所だと言われてるわけじゃないし、それにステータスがEで行ける異世界もそんなに危険なことはないから、安心して。異世界は何があるか分からないから、もしものための備えだと思ってくれて大丈夫。」
私が、そんなに不安そうに見えたのだろうか。
すごくフォローしてくれている。
確かに、初めては怖いし、異世界という未知の所に行くという点では、不安もある。
でも、すでに異世界に触れるという点では、コスモスで達成してるんだよな。
コスモスみたいに、いい人ばかりじゃないかもしれないけど。
「なにかあったら、ネロを頼ればいいよ」
「おい」
「助けてくれるはずだから」
「おい、アルバート。お前が勝手に決めるなよ」
「素直じゃないネロのために言ってやってるんだろ?」
「お前なぁ」
アルバートさんとネロの言い合いに、思わず笑いが出て、緊張がほぐれるのが分かる。
感謝だなぁ。
「心配かけてすみません。ちゃんと楽しんでくるし、しっかり仕事もしてきます。」
笑顔でそう告げると、企画宣伝課の人たちは微笑み返してくれた。
「異世界転移装置を使うから、道中何かあることはないと思うけど、気を付けてね。ちゃんと説明は聞くこと。」
「お土産話聞けるのを楽しみにしてるわ」
「いってらっしゃい、チヒロ」
「帰ってきたら、遊ぼうね」
アルバートさん、フェリシアさん、アンジュ君、アンヘル君。
企画宣伝課、総出で見送りをされちょっと照れ臭かったけど、嬉しかった。
「いこうか、ネロ」
「あぁ」
そういって、異世界転移装置の方へ、足を進めた。
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