330話 私が過ごした二十年
「チヒロの世界では、本当にいろんな文化が発展しているんだね。」
クラト公子に言われて、ハッとする。
夢中になって、元居た世界の話をしてしまった。
異世界の時間の流れが元居た世界と同じことは知っている。
元居た世界の一秒と、異世界の一秒が同じなのであれば、異世界で過ごした時間は、私が元居た世界から姿を消した時間と同じはず。
そう思うと、そんなに時間が経っているわけでもない。
たかが数カ月、私は異世界旅行をしているだけだ。
でも、元居た世界で、数カ月もの旅行に行ったことはない。
思ったよりも、私は元居た世界のことが好きだったらしい。
「そうなんですよね。」
思い浮かべて、笑いが出る。
ちょっとだけその場所から離れると見えるものが違うと言うが、本当にそれ。
大切な故郷だとは思っていたけど、あくまで私の中では、過去のものだと思っていた。
でも、そうじゃない。
二十年間、生きてきた世界は、そう簡単に過去の物にはならなかった。
「いろんな話を聞かせてくれて、ありがとう。火の街でも参考にできそうなものがたくさんあった。」
「いえいえ。いっぱい助けてもらったので、なにかお手伝いできたのなら、幸いです。」
私の故郷の話で、大いに盛り上がり、外は暗くなってきた。
ガラス瓶作りも、結構な数をネロが作ってくれたことで、お土産の数も十分な量になった。
ガラスをしっかり冷やすから、実際のガラスの中身は、また明日ということになった。
結局、二日かけてのお土産づくりになったわけだけど。
火の街の滞在時間が他の街に比べて尋常じゃないな。
「じゃあ、ある程度片付けも済んだし、また明日もおいで。」
ブラーさんは、片づける作業を途中で止め、私たちの方を向いて言ってくれた。
片づけは、まだ残っているけれど、ブラーさんなりのこだわりがあるらしく、さっさと帰れと言われてしまったので、お言葉に甘えて帰らせてもらうことにする。
「すみません。また明日もよろしくお願いします。」
「明日、俺がまた迎えに行ってやろうか?」
今日、とんぼ返りすることになったのを忘れたのだろうか?
迎えに来てもらっても、すぐに火の街に行くのだから、申し訳ないのでやめてほしい。
「いえ、虹の街までの迎えは、大丈夫です。」
「そうだな。あの感じで火の街に来るのなら、俺も明日は火の街で待たせてもらうよ。火の街の舟置き場で待ってる。」
ブラーさんのお店も覚えたし、ここで待っていてもらってもいいんだけどな。
チラリとクラト公子を見ると、にっこりと笑顔で返される。
余計なことは言わなくてもいいかも…
「お願いします。今日は、本当にありがとうございました。」
お世話になったお礼を言うと、ブラーさんは不服そうな顔をする。
なぜ?
「えっと?」
「そう言うのは、すべて完成してから言ってくれる?こんな中途半端な手伝いで、お礼を言われても、お礼なんて受け取れないし。」
確かに、まだ完成しているわけではないけど、お世話になったのは事実だし。
「ならば今のは、途中経過のお礼ということで…明日もう一度言わせていただきます。」
「ふーん…」
ブラーさんは、そっぽを向いてしまったけれど、クラト公子の方を向いたら、ニコニコしていたので、怒ったわけではないだろう。
「それでは、また明日。よろしくお願いします。」
もう一度、頭を下げて、手を振りながら、ブラーさんの店をあとにする。
「楽しかったね。」
「そうだな。まぁ、チヒロは、ほとんどガラス瓶を作っていなかったが。」
痛いところをついてくる…
「人には向き不向きがあるの。向いている人がやった方がいいでしょ。だいたい、ネロが器用すぎるんだよ。やった事でもあったの?」
ガラス細工、本当に難しかった。
「いや、ああいうのは初めてだ。あれに近いものはやった事があった。」
そうなんだ。
何気ないように言ってるけど、結構な時間をその近いものに費やしたんだろうな。
「なんだ?」
「別に。」
私がニヤニヤ見るのが、気に入らないのか、ネロはフイっと私を置いて舟の方に飛んで行ってしまった。
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