328話 私の元居た世界に興味がありますか?
ネロってやっぱり器用なんだよね。
私は、一つガラスを形成するだけで、緊張で涙を流しヘトヘト。
そして、まぁまぁ不格好なガラスを作った訳なんだけど。
窯の前で、ネロがフーっと息を吹きかけている様子をじっと見る。
ブラーさんも、ネロの様子を見て驚いているし。
「ネロ、ガラス細工、楽しい?」
「あ?あぁ、ガラスを自分で育てている感じがいいな。」
ネロの独特な感性は、分からないんだけど。
ネロが楽しそうで何よりだよ。
黙々と作るネロの姿は、とても生き生きとしていた。
「チヒロは、もうやらないの?」
椅子に座り、テーブルに両肘をついて、手の甲に顎を乗せ、ネロを眺める。
「チヒロは、もう休憩タイムか?」
「クラト公子こそ、火の番はいいんですか?」
私の座る椅子の横に、クラト公子は苦笑いをしながら座った。
「ある程度温度が上がれば、後は温度をキープするだけだからな。」
「私は、一つ作るので、いっぱいいっぱいだったので、ネロを見ながら学習中です。」
正直、ネロがあまりにも器用すぎて、何の参考にもなっていないんだけど。
「そういえば、チヒロ。初めてやると言った割には、ガラスづくりにあまり驚かなかったな。」
クラト公子も、ネロとブラーさんのことを眺めつつ、私に何げなく聞いてきた。
「初めて見ると言っても、これと似たようなものは見たことがあったので。」
炎が綺麗だな…くらいの緩いテンションで言ったら、クラト公子が勢いよく私の方を見てきた。
「見たことがあるのか?」
なぜそんなに驚く?
世界は広いよ?
「えっと、はい。私のいた世界でも、ガラス職人さんは、こういう作り方をしていたな…と。まぁ、私は実際体験したわけではなく、見ただけですけど。なので、要領もコツもさっぱりです。」
「コスモスはやはり異世界の中心だな。コスモスは、いろんな異世界の技術を取りいれて、どんどんと大きくなっているんだろ?」
コスモスは確かに大きいけど、私がガラス細工を見たのは、コスモスじゃない。
コスモスにもあるかもしれないけど。
「私は、コスモスでガラス細工を見たわけじゃないですよ?私も、コスモスには来たばかりなので、あまりコスモスのことは詳しくないんですよね。」
「コスモス出身じゃないのか?」
「違いますよ?私もそうですけど、コスモスは意外といろんな異世界の出身の人たちが住んでいます。」
だからこそ、コスモスの文化の発展は目まぐるしい。
そして、土地柄なのか人柄によるものなのか、他の文化を取り入れていくことに寛容なんだよね。
新しい文化については、目ざとくチェックしてるし。
だから、私も異世界旅行でしっかりと文化を持ち帰って、還元したいと思っているわけだし。
「そうか。チヒロって、コスモス出身じゃないのか。なら、どこなんだ?」
「え…?」
私の出身を話すくらいなら、大丈夫だよね。
コスモスの機密に触れないよね。
でもなぁ…私のいた世界って、ゲートを開通していないんだよなぁ。
私はコスモスに不法入界した人間だし。
「よく分からないんですよね。でもコスモス出身では、ないことは確かです。」
嘘は言っていない。
本当のことは、全然言っていないけど。
「何か理由があるんだな…悪い。」
「いえ…理由とかも特になくてですね。その世界にいたっていう記憶は、しっかり持っていますし。特に気にしていません。」
むしろ、気分転換にどこか旅をしたいと思ったら、異世界に飛んでいただけだし。
「そうか。良ければなんだが、チヒロがいた世界の話を聞かせてくれよ。」
「興味がありますか?もちろんです。」
異世界に来て、元の世界の話をする機会なんて、あまりなかったし。
「なになに?僕達を抜いて、なんだか、盛り上がってるじゃん。」
そこにガラスづくりをひと段落付けて、ブラーさんとネロが、私たちが座っている方へ寄ってきた。
「チヒロの世界の話を聞いていたんだ。チヒロはガラス細工を元居た世界で見たことがあるそうだぜ。」
「そうなの?通りで。動きがぎこちないわりに、やるべきことは分かってそうだったから、気になったんだよね。」
そうして、興味を持ってくれたのか、ブラーさんは、机をはさんで、私とクラト公子の座る椅子の反対側へと座った。
そしてネロは、ジトっとした目をしながら、私が肘をついているすぐそばに丸まった。
余計なことを言ったら、ネロに叩かれるな…尻尾で。
読んでいただき、ありがとうございます!
よろしければ、
評価、ブックマーク、感想等いただけると
嬉しいです!
よろしくお願いします!