326話 火の街の業務開拓
「それにしても、本当に驚きました。」
コップにお茶を注いでもらい、先ほど完成した出来立てほやほやの、ブラーさんのお店の中で休憩タイム。
休憩タイムと言っても、私たちはずっと座って、職人のパフォーマンスを見ていただけなので、テールさんとアゲルさんの休憩タイムにお供させてもらっている形だ。
出来たばかりの建物特有の空気が、とても居心地がいい。
リフォーム前のお店も綺麗といえば、綺麗だったが、今の様子を見てしまうと、うーんと唸りを上げてしまいそうだ。
断然今の方が親しみやすいし、お店に入りたいという気持ちにさせる。
やっぱり、それを売るための見た目は相当重要という事だろう。
いつも何気なく入っていた喫茶店やカフェテリアは、親しみやすく、お客さんが来店しやすくするためのお店の企業努力を半端なくしていたのだろうなと、今はそう思う。
テールさんとアゲルさんの職人芸と、ブラーさんの技術があれば、お客さんは今後寄り付くだろう。
ブラーさんは、内装センスは全くなかったが、ガラス玉の輝かせ方は、あの乱雑した元のお店でも一級品だった。
一見ごちゃごちゃごちゃとしているようで、おもちゃ箱から取り出すときのワクワク感があの店にはあった。
テールさんとアゲルさんのおかげで、そのおもちゃ箱自体も目を引くものとなったわけだし。
この店が、プティテーラで名を轟かせるお店になる日は、案外早いかもしれないな。
「もう少し、行ける所もあったっすね。」
「丁寧な作業と遅い作業は、同じではないしな?」
私からすると、十分丁寧な仕事だし、仕事も早かったと思うが、そこは本人たちにしか分からないことがあるのだろう。
出来上がったお店を見て、満足していないところが本当にモノづくり職人だと思う。
「じゃあ、俺らはこれで失礼するっすよ。」
「また何かあったら、呼んでくれよ。公子、ブラーさん。それから、チヒロさんとネロ君も。」
さっと立ち上がり、私たちを見回して言う姿は、本当に爽やか。
「私たちもいいんですか?」
「もちろん。それに、今日、大変興味深い話も聞けたことだし。異世界での発注も始めようかな。」
この二人が異世界で活躍する姿が見られるのか。
それは、面白い。
「それは、嬉しいです。お二人の技術に惚れ込みましたので、ぜひ依頼させてください。」
「そんなふうに言ってもらえると、職人冥利に尽きるね。ぜひ待ってるよ。」
二人が手を振りながら、去っていくのを見送る。
いい出会いは、本当に一日を充実させるなぁ。
最高の一日だ…
あれ?
私ここに何しに来たんだっけ?
「おい、今からドームアートづくりの準備をする。一日じゃ完成しないから、明日も来てもらうから。」
椅子から立ち上がり、ブラーさんは工房のほうに入っていく。
それより…
「一日じゃ、ドームアートは完成しないんですか?」
「ガラスから作るんじゃないの?」
「へ?」
ガラスから?
「別に出来合いのガラスを使ってもいいけど。ガラスから作るのであれば、一日はガラスを冷やすのに時間を使うからね。いくら、魔力操作を利用しても一日じゃ無理だよ。」
「ガラスから…ガラスも形を変えられるんですか?」
「できるよ。せっかくだし、教えてあげるよ。」
ガラスから手作りか…
「まぁ、とは言っても、前言っていた数を全部を手作りするわけにはいかないと思うけど。結構時間がかかるだろうし。だけど、体験しておくのもいいんじゃない?ガラスづくり。」
ブラーさんが、にやっと笑って私たちの方を見ている。
やらせてくれると言うのであれば、挑戦させてもらおう。
またとない機会だ。
「ネロもやろう。」
「そうだな。面白そうだ。」
思ったよりも、ネロもちゃんと乗り気なようだ。
「泣かすまでしっかり教えこんであげるよ。安心して。」
ブラーさんはとても楽しそうに言っているけど、今の言葉…
どこに安心できる要素があるか、分からないんだけど。
若干、不安を感じつつも、ガラスづくりを教わるべく、工房へと向かうのだった。
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