325話 職人たちによるパフォーマンス
正直、驚いた。
「すごいな…」
「うん。」
一時間という指定があったため、その間の時間をブラーさんとクラト公子は、私たちを別の場所に案内してくれようとしていたが、私はそんな時間で、一体何をするのかが気になり、邪魔にならない場所で見学をしていいかと申し出た。
私の言葉に、少し驚いた様子の、テールさんとアゲルさんだったが、すぐに爽やかににっこりと笑って、もちろんと言ってくれたのだ。
「そこら辺は、危なくないので。」
テールさんに、指定された場所に座った。
一体、どんな作業をすれば、さっきの設計図が一時間足らずで出来ると言うのだろうか。
どんなものを見せてもらえるのだろうと、少しわくわくした。
「まさか見たいと言い出すとは思わなかったけど、せっかくだから、火の街の職人の実力を見てもらおうかな。」
クラト公子も、私とネロの隣に座って、テールさんとアゲルさんの様子を見ている。
二人は、建物をじっと見つめ、ペタペタと触りながら、観察している様子だった。
そして、二人が頷き合う。
手のひらを建物の壁にあてたかと思うと、その場所がボロボロと崩れて行った。
「え?え?」
「…なるほど。火の街の職人…魔力操作はお手の物ということか。」
魔力操作?
目の方に気を集めると、二人の体から白い靄のようなものが出ている。
そして、その白い靄に絡めとられ、木材やガラスなどの資材が浮き上がり、舞っていた。
料理を目の前で作ってくれるライブクッキングというものがあるが、私は、今それを見ている気分だな。
食材や調味料が宙を舞い、料理をする過程を見せ、楽しませる。
私が見たことがあるのは、お肉を焼いてくれるステーキ屋さんだったけど、ステーキのお肉を華麗に切り分けたり、調味料の入った木の素材の入れ物をジャグリングするように扱ったり、最後には、火でファイヤーパフォーマンスをしたり、料理人という職人たちの技術と、人を魅了するパフォーマンスを見たんだけど、今見ているのは、まさしくそれ。
木材などの資材が宙を舞い、建物が出来る過程を見せてもらう。
木片が空を舞い、職人二人は資材と共に踊るように。
外が完成すると中の作業に移るらしい。
見る場所を、また別の安全な場所に移させてもらい、その様子を楽しむ。
「二人の作業を見ていて、楽しいのか?」
クラト公子やブラーさんは、私が夢中になって二人の作業を見ていることに首を傾げた。
このパフォーマンスの価値が分からないなんて…と思ったが、この二人の様子を見る限り、この作業は火の街にとっては普通のことなのだろう。
見慣れない人達が見たら、お金を払ってでも見たい人たちがいるのに。
これまた、もったいない事案である。
「私の世界では、こういうのを街中で突然やるパフォーマンスをゲリラライブと言ったりするのですが、ああいうのは、見慣れない方からすると、物珍しいんですよ。私の世界では、ああいった個人の能力によるパフォーマンスにお金を払う人がいたくらいです。」
そう言うと、クラト公子とブラーさんは、少し驚いていた。
まぁ、ここではそういうのが当たり前で、珍しくもないんだもんね。
そりゃそうだ。
「こういうのも、異世界の人からすると価値があるものなのなんだな。」
「やっぱり、僕たちは、異世界のことをよく知らないんだね。」
プティテーラは、観光客が入ってきて、間もない訳だし、今後どんなものが観光客にウケるのか、考えて行けばいいと思うけど。
「異世界の意見は、参考になるな。」
「そうですか?お役に立てたなら、良かったです。」
そして、一時間。
今まで宙に舞っていた木材やガラスは、綺麗に地面へと降り、二人の職人がニカッと笑った。
そして、体を渦巻いていた白い靄がゆっくりと消えていく。
職人二人は、私たちがいる方に振り返ると、グットポーズをしてくれた。
こうして、ブラーさんのお店のリフォームが、終了したのだった。
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