318話 好きを説明するのは、難しい
クラト公子に舟を任せ、火の街へ来た。
私が運転をかって出ようとしたら、クラト公子とネロに止められてしまった。
舟を置いて、火の街に降り立つ。
一昨日振りなんだよなぁ。
自分でも思うけど、やっぱり火の街に来すぎだろう。
そして、火の街を歩くクラト公子は、特売品売り場のように人が寄ってくる。
特売品エリアを一人抜け出て、小さい男の子がクラト公子の方に来た。
「クラト公子、今日は帰ってくるのが早いね。サボり?」
ほう。
クラト公子にこの口の利き方。
そして、はっきりとサボりと言い放つ臆面のなさ。
将来、大物になるに違いない。
「サボりじゃない。よく見ろ。俺は、今日、火の街を案内するんだ。」
「でも、前も案内してたよね?この人たちのこと。」
「あぁ、この人たちは、火の街のことが好きになったらしい。だから、何回、火の街に遊びに来たとしても、飽きないんだ。」
いやいや。
何を言っているのか…
「へぇ、火の街好きなのか。」
そうすると、クラト公子に話しかけていた、男の子は、今度ターゲットを私とネロに変えた。
「そうだね。火の街は好きだよ。」
「どこがだよ?好きなんて言葉は、簡単に言えるんだぜ。」
おませなちびっ子よ。
どこでそんな言葉を覚えてくるの?
「ほら、火の街が好きなら答えることが出来るだろ?」
ブスッとしながらも、どこか真剣な目をしている男の子。
なんだか憎めないんだよねぇ。
「おい、絡むのはやめろ?」
「そうだね…」
「チヒロも大丈夫だ。」
クラト公子は、気を使ってくれているみたいだし。
まぁ、自分の好きな街のことを、見ず知らずの奴が好きと適当に言っていたら、まぁ気にいらないだろうな。
私は、男の子の目の高さに私の目線を合わせるようにして、屈む。
「人が温かいところかな。」
「へ…?」
せっかく答えたのに、なんだ、その間抜け面。
「前回、クラト公子に案内してもらった時にも思ったんだけど、クラト公子が来ると、クラト公子の周りに人が集まるでしょ?でも、クラト公子がいないときに来ても、人の周りには人が溢れていた。そういう街の雰囲気っていいなぁと思って。職人としての技術は、研ぎ澄まされているのに、温かい雰囲気。私はそういうのが好きだよ?」
「……」
「ご満足いただけたでしょうか?」
「…うむ。仕方ないから、火の街に足を踏み入れることを許そう。」
口をぷっくりと、フグのように膨らませていた男の子。
「お許しいただけましたね。」
クラト公子の方を向いて、ピースサインをすると、ポカンと口を開けたクラト公子が、やれやれと言った雰囲気で笑った。
そして、男の子の頬を思いっきり、引っ張った。
「いひゃいひゃ。」
「俺の客人だぞ?チヒロとネロが優しくてよかったな?こう見えても、この二人、ちょっと偉い立場なんだからな?」
こらこら。
子どもに嘘を教えるんじゃない。
下っ端ですから。
コスモス職員の新入社員だから。
「だって、火の街のこと悪くいうやつなんて、火の街に来てほしくない。それに、プティテーラにも来てほしくないもん。」
観光客と何かあったのかな?
いろんな人がいるしねぇ…
「でも、お姉さんたち、ごめんね。」
「全然。むしろ私は将来、有望な子とおしゃべり出来て、ラッキーでしょ?」
「お前は何を言っているんだ…?」
可愛い子どもの素直な謝罪に、心もほっこりしてしまう。
ネロの言葉なんて気にならないくらいに。
「悪いな。」
「いえいえ、全然?面白い子は好きですよ?」
「チヒロの面白い基準が分からないが、さっさと、ここを離れるか」
このまま、クラト公子の特売市場をしている訳にもいかないしね。
そんなことをしていたら、日が暮れてしまうよ。
「クラト公子は、愛されてますねぇ。」
「恥ずかしいから、やめてくれ…」
街の人たちもクラト公子が大切な様に、クラト公子も満更でもないと言った感じだろうか?
照れなくてもいいのにー。
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