313話 教師という仕事は凄すぎて、私には無理です
デウィスリ夫人の家を出て、太陽の街をとことこと歩いていく。
あ、あたりが暗くなってきたなぁ。
舟に乗るの、危ないかな?
「今日は、ありがとうな。」
あたりの風景を眺めながら歩いていると、突然、クラト公子が口を開く。
「ん?なにが、でしょうか?お礼を言うとしたら、私たちの方だと思うんですけど。月の料理を食べさせて貰いましたし。美味しい料理も食べられたし、今日も楽しかったし。」
「いや、デウィスリ夫人のあんなスッキリした顔を見れると思わなかった。確かに俺は、シンに紹介された後から、デウィスリ夫人に物事を教わっていて、デウィスリ夫人は俺の先生だった。だけど、デウィスリ夫人があんな風に想っているなんて思わなかった。」
今度はクラト公子が暗い顔をする。
うーん。
教わることを教わったら、先生離れをするのは当然だしなぁ。
クラト公子にとっても、デウィスリ夫人は大切な人なのだろう。
「私、これだけはなりたくないと思っていた職業があるんですけど。」
「いきなりなんだ?」
怪訝な顔をするクラト公子を無視して、話を続ける。
「それが、教師という職業です。」
「な、なんでだ?」
「教師という職業は、割に合わないんですよね。自分が育てた生徒たちは、時期が来たら自分の元から去っていく。成長した姿を最後まで見ることは、叶わない。可愛い生徒たちばかりではなく、話を聞かないお転婆な生徒もいるでしょう。生徒たちだけを相手にすればいいという訳ではなく、生徒の親たちの相手までしなくてはいけない。教育者として見本でいなければならない。結構、窮屈な仕事だと思うんですよね。まぁ、完全にこれは私が生徒という立場から、先生を見て来て思った事なので、実際はどうか知りませんけど。」
「だから…?」
「私は、先生という立場は、割に合わないと思っています。でも、デウィスリ夫人は、たった一日しか、関わっていない私にも生徒と言い、自らが先生になった。デウィスリ夫人の家にいた時も言いましたが、お客様でもよかったのに。あの人は、根からの教師なんですね。」
そう。
クラト公子やシン王子たちに何があったかは知らないけど、あの人はちゃんと教師で、何度も出会いと別れを繰り返してきているのだろう。
たった一日、お菓子を習った私にも、先生と名乗るくらいなのだから。
デウィスリ夫人は、嬉しくもあり、寂しくもあると言っていた。
それは、本当なんだろう。
でも、それでも、あの人は先生という立場を辞めることが出来なかったんだろうな。
デウィスリ夫人は、生徒のことが好きで、教えることが好きで、そして、先生という仕事が好きだから。
「そうかもしれない。デウィスリ夫人は、俺の誇りの先生だ。」
「そう思うなら、また会いに行っては、どうでしょう?」
「会いに…?」
「今日は、会いに行くのが久しぶりだったんですよね。」
「そうだが…」
これだから、教師というものは割に合わないと感じてしまうのだ。
「先生は、生徒の成長が嬉しい物です。成長した生徒が、顔を見せに来てくれることは、嬉しいことなのではないでしょうか?」
シン王子やナンナル王子がデウィスリ夫人に頼みごとをした時、デウィスリ夫人は嬉しそうな顔をしていた。
成長した生徒の助けなんて、ほぼすることがないだろう。
頼ってもらった事、嬉しかったんだろうな。
「そうだな。そうかもしれない。」
「きっとそうですよ。」
「チヒロも教師に向いているかもしれないな。話を親身になって聞いてくれるところとか、ぴったりじゃないか?」
話を聞いていただろうか?
私は、絶対になりたくないと言ったではないか。
「無理です。向いていないので。」
無理、無理。
他人の子ども達に、親身になって教え導くことなんて、私にできるはずがない。
そんな責任をまず追いたくない。
子どもの相手も無理だけど、その親たちの相手はもっと無理。
そんなの絶対に向いていない。
自分の手元から離れることが前提の子どもに、親身になれるなんて、それはもう無償の愛だ。
「教師という職業は、凄すぎて、私には無理です。」
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