312話 私たちはいい師に出会えました
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「デウィスリ夫人、今日はお世話になりました。」
「あらあら、もう帰ってしまうのね。」
外を見ると、辺りは夕焼け。
これから、どんどん暗くなってくるんだろうな。
夜の水路は、危険だし、そろそろ帰った方がいいだろう。
「そうですね。暗くなる前に宿泊施設に着きたいので、そろそろ出ないと間に合わないかもしれません。」
「そう。寂しくなるわね。」
え?
「私がコンジェラルチェの作り方を教えたんだもの。もう私の生徒と言っても違いありません。」
「生徒だなんて…そんな。」
デウィスリ夫人の生徒…
「私が教えたんですよ。チヒロちゃんとネロちゃんは、誰が何と言おうと私の生徒です。だから、生徒が私のもとを去っていくのは、嬉しいことでもあり、寂しいのですよ。」
たった一日…
たった数時間、一緒に過ごしただけだけど、そう言ってもらえるのは、なんだかくすぐったい。
「じゃあ、私たちは、幸せ者ですね。」
「え?それはどうしてかしら?」
目をパチパチと瞬かせ、キョトンとするデウィスリ夫人に思わず笑ってしまう。
「だって、こんなに生徒思いの先生に教わることが出来たんです。普通は、たった一回教わりに来たくらいで、先生になんてなって貰えないんですよ。よくて、お客様でしょうか?」
「お客様だなんて、そんな。」
「はい。なので、ありがとうございます。私たちは、いい師に出会いました。ね、ネロ。」
「…あぁ、そうだな。感謝します。」
ボソッと呟くと、ネロはデウィスリ夫人の方を向き、微笑みながらの感謝の言葉。
素直じゃないネロにしては珍しい、最大限の感謝なのだろう。
まぁ、ネロ。
食べることも甘いものも好きだしね。
ネロにとっても、有意義な一日だったのかもしれない。
「教えると言うことは、嬉しくもあり、寂しくもある。そうずっと思ってきたけれど、そんなふうに言ってもらえると思わなかったわ…」
「そうですか?少なくともクラト公子は、同じようなことを思っていると思いますけど。」
「え?」
クラト公子の方を見ると、私に名前を出されて驚いたと言った風だろうか?
「…俺が、デウィスリ夫人の生徒だとよく分かったな…」
「今日教わったのが、私とネロ、クラト公子なのに、クラト公子の名前が出ないのはおかしいでしょう。デウィスリ夫人も気を使って言わない様にしていたんでしょうけど。」
「そうか…」
クラト公子は、何かを考えこんだ後、意を決したように、デウィスリ夫人の方に向き直る。
「デウィスリ夫人。」
「なにかしら…?」
「デウィスリ夫人の生徒でいれて、俺は嬉しかったよ。デウィスリ夫人に教わったことは、今でも俺の中に生きている。だから、ありがとう」
「クラトちゃん…」
デウィスリ夫人の瞳から、スッと雫が落ちる。
「あれ…おかしいわね。嬉しいはずなのに、涙が止まらないわ。」
「デウィスリ夫人…」
「デウィスリ夫人。涙は嬉しいときにも出る物です。出る物は、出し切ってしまいましょう。そうすれば、気持ちも晴れやかに、スッキリとするかもしれません。」
思いっきり泣いた後って、妙な疲れとスッキリ感があるんだよね。
泣くことに体力を使って、余計なことを考えなくなるのかもしれないけど。
デウィスリ夫人の涙が、どんな涙か分からないけど、少しでもデウィスリ夫人がスッキリと出来たらいいと思う。
「そうね。出し切った後は、スッキリするかもね。」
「はい。」
「私もいい生徒を持ったかもしれないわ。」
「そう思ってもらえるように、日々精進します。」
先生が自慢の生徒を持つように、生徒も自慢の先生を持ちたいものなのだ。
たった一日の短い体験授業だったけど、そこにはいい出会いがあった。
「私は、貴方たちの先生になりました。だから、分からないことは、いつでも聞きに来てね。待っているわ。」
泣き終えたデウィスリ夫人の顔は、やっぱりスッキリとしていて、とても美しく笑っていた。
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