310話 手作り体験とお菓子パーティ
「チヒロ、ごめんって。」
「ナンナル王子、謝らないでください。」
「いや、あれは丸の出来損ないにしか見えなかったからな。」
ちょっと、ネロ。まだ言うか。
飲み物を無事、選び終えた私は、すでにレベーロルチェを完成させている、ネロやクラト公子の方へ行き、椅子に座る。
「チヒロにも苦手なことがあるんだね。」
「ありますよ?ナンナル王子は、私のことなんだと思っているんですか?」
「え?怖いもの知らずで、何でもツッコんでいく子?」
それは、苦手なものがあるなしと何か関係があるのだろうか?
そして、それは、褒められているのだろうか?
「褒められていないだろ。」
「そんなことは、分かってるから。」
「そういえば、舟の運転も壊滅的だったよな?」
そんなことはないと思う。
舟の運転は楽しかったけどな。
「そうなの?器用そうだけど?」
「いや、チヒロの運転は、めちゃくちゃ酔う。」
「あー…確かにそうだったな。」
そう言えば、以前クラト公子、シン王子と一緒に火の街に行ったときに、二度と運転するなとか言われたような気がする。
そんなに、ひどくなかったでしょ。
「チヒロは、意外と不器用なんだね。」
「手芸とか、細かい作業は好きですけど。美術のセンスは、昔からなかったですね。モノづくりや、絵を描くことも好きと言えば、好きなんですけど。」
「センス…フフ…」
そこ、隠れて笑うのをやめてもらっても?
そして、私のコップを見ながらも笑わないでください。
私のコップの中には、先ほど作った五大一族のマークのコンジェラルチェが沈んでいる。
この人たちは、これを見てクスクスと笑っているのだ。
もう、恥ずかしいんだけど。
「それで、ナンナル王子は、どうしてここに?」
強引に話を変えるために、いきなり現れたナンナル王子に話を振る。
「あぁ。そういえば、用件を言っていなかったね。今日は、デウィスリ夫人に用があって来たんだ。」
「あら、私に?ナンナルちゃんが、私に用があるなんて珍しいわね。」
部屋の奥で、ナンナル王子分のレベーロルチェを作っていたデウィスリ夫人が、手にお盆を持って出てきた。
「実際は、俺ではないんだけどね。」
「はい。ナンナルちゃんもせっかくだから、お菓子パーティに参加していったら?」
「うーん…そうだな。急いで帰らないといけないわけではないし、ちょっとだけ、ここでのんびりするのもアリかもね。」
そういって、ナンナル王子もコンジェラルチェ&レベーロルチェのお菓子パーティに参加することになった。
「じゃあ、先にお菓子パーティを始めちゃいましょう。それでは、お菓子作りおつかれさまでしたー。」
「おつかれ様でしたー」
デウィスリ夫人ののほほんとした声に、他の人も続く。
私も、おつかれ様でしたと言った後に、手を合わせて、心の中でいただきますと言った。
目の前には、自分の作ったレベーロルチェ。
私は、結局固めのコンジェラルチェに、炭酸ソーダにした。
シュワシュワとした液体の中に、私の作ったコンジェラルチェが沈む。
ちいさく作ったコンジェラルチェを一口で食べると、触っている時に感じた柔らかさと滑らかさを口の中で感じた。
それに、形作ったことで、ギュッと固められて、もちもち触感もある。
シュワシュワの炭酸に絡んで、おいしい。
「うま…」
「おいしいかしら?」
デウィスリ夫人に横からニコニコと見つめられて、首を縦に振った。
「そう、よかったわ。自分で作ると、楽しくて、それに美味しいわよね。」
もちもちコンジェラルチェをゴクンと飲み込む。
「はい。楽しかったです。まさか、手作り体験ができるとは思いませんでした。ありがとうございました。」
「いえいえ。私も、みんなが楽しそうに作っている姿を見れて、良かったわ。しかも、最近は、こうやって物事を教えたり、食事を作ったりすることも、ほとんどなくなってしまったからね。こちらこそ、ありがとう。」
優しそうな顔をして、ナンナル王子やクラト公子を眺めているデウィスリ夫人は、少しだけ寂しそうで、でも嬉しそうな顔をしていた。
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