309話 うまいって言ってくれましたよね?
私が選んだコンジェラルチェに触れてみると、グニグニ、ふんわりした肌触りが、紙粘土に触れている時みたいで気持ちがいい。
しかも、この質感なら、形を整えるのも簡単に行くんじゃないかな?
「よし。」
お茶碗ほどのサイズのコンジェラルチェをそっと捏ねて、5等分する。
五等分したコンジェラルチェの一つを手に取り、ころころと丸の形を作っていく。
そして、二つ目は、丸にした後、先を少し伸ばして、伸ばした方と反対側をちょっと太らせる。
三つ目も丸を作り、丸からいくつかの線を伸ばす様に引っ張る。
四つ目は、丸を作り先を摘まんでクルっとひねる。
五つ目は、また四等分して平にし、それを重ね合わせる。
五等分したものは、すべて形を変えて、机の上に乗せた。
「お、チヒロは何を作っているんだ?」
「クラト公子!私もオリジナルのレベーロルチェを作りたくてですね。形を作れるコンジェラルチェを選んだんです。」
「へぇ、まさにオリジナルだな。どれどれ、どんな出来なんだ?」
クラト公子が私の手の方を覗き込んできた。
まだ作業中だけど、コンジェラルチェの方は、形づくりが終わっているし、まぁ、いいか。
「細かく分けたのか。いいじゃん。」
「そうですよね。我ながらうまくいったと思っていて、これとかいいと思いません?」
私は、四つ目のひねりを加えたコンジェラルチェを手の上に乗せた。
「おー、いいな。いい形してる。」
「ですよね。」
クラト公子に褒めて貰えたのであれば、間違いないだろう。
じゃあ、私も飲み物を選んで、レベーロルチェを作っちゃおうかな。
「チヒロ…」
私が気合を入れて、飲み物選びに行こうとすると、今度はネロが私の手元を見てきた。
「それは、なんだ?」
「これ?かわいいでしょ?うまくいったと思うの。」
「…だから、それはなんだ?」
眉をひそめて、私の手元を見てくるので、なんだか落ち着かなくなる。
「決まってるじゃない。これは、火よ。」
「え?」
え?って…
クラト公子の方から聞こえてきたような。
「チヒロ…もう一回聞くが、それは何だ。」
「なに、ネロ。だから、火だって言っているでしょ?クラト公子だってうまいって言ってくれたもの。ね、クラト公子?」
「え、あぁ…そうだな。火…火かぁ…」
クラト公子?
「チヒロ、お前…もしかして、その横に並んでいる四つの塊は、月、雫、太陽、虹を表しているんじゃないだろうな…」
「すごい、ネロ。よく分かったね。」
私が、そう言うとネロの眉間のしわが、より深く刻まれた。
「そうか…」
「なに?」
「いや、お前にも苦手なことがあるんだと、思ってな…」
「何言っているの?苦手なことだらけだけど?」
「…そうか。」
変なネロ。
「クラト公子もちゃんとわかってくれましたよね。」
「そうだなぁー。そうだな。」
「公子…言いたいことがあるなら、はっきり言ってもいいぞ…?」
「そうだな。」
変なクラト公子。
「チヒロちゃん、どう?出来たかしら?」
「はい。出来ました。」
「なあに、これ?」
「え?五大一族のモチーフですけど…?」
「あぁ…そうなのね。」
「ネロも分かってくれたし、クラト公子もうまいって言ってくれたんですよ。」
「そうなのね…」
ん?
変な、デウィスリ夫人。
「写真とかあれば、シン王子やアルビナ令嬢にも見せられたのになぁ。」
「見せなくてもいいと思う。」
「さっきから、なに?そんなに食い気味に否定しなくてもよくない。」
「いいから早く、これにかける飲み物を探せ。」
怒らなくてもいいじゃん。
私は、今度は飲み物選びをするために、コップにちょっとずつ、置いてある飲み物を注いで、飲んでいく。
「デウィスリ夫人、お久しぶりです。あれ、クラトにネロ?…ってことは、チヒロもいるの?」
「あら、ナンナルちゃん。来てくれたのね。」
ナンナルちゃん?
ナンナル王子が来たの?
「よお。今、忙しいんじゃないのか?」
「忙しいよ。今日は、デウィスリ夫人に頼みごとがあって来たんだ。」
振り返ってみると、そこにはちょっとだけゲッソリとしたナンナル王子。
「やっぱりチヒロもいたんだね。」
「ナンナル王子、お久しぶりです。」
「久しぶりー。コンジェラルチェを作っていたんだね。」
「そうなんです。オリジナルのコンジェラルチェを作ろうってことで。」
「いいね。…って、なにこれ?丸の出来損ない…?」
キョロキョロとあたりを見回し、楽しそうにするナンナル王子の目に、私の作ったコンジェラルチェが目に留まったみたいなんだけど…
「え?なに…?」
「丸の出来損ない…に見えますか?」
「いや、まぁ、球体がうまく作れなかったのかなって。」
「そうですか。」
ナンナル王子がシレッと言う。
「クラト公子、うまいって言ってくれましたよね?」
「え…」
「ネロ?」
「いや、それは…」
二人の顔をじっと見ると、スッと顔を逸らす。
「もぉ、おバカ!!!!!!!」
そりゃあ、美術も図工も得意じゃなかったし、おかしいなとは思ったよ?
でも、うまいって言ってもらったら、うまいと思うじゃん。
通りで話がうまくかみ合わないなって思うわけだ。
もう知らん。
私は、頬を膨らませながら、飲み物選びを再開し、途中から来たナンナル王子は、状況を理解できずに首を傾げた。
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