306話 混ぜて、冷やして、すりおろして
休憩時間…?
なにそれ、おいしいの?
混ぜて、冷やして、すりおろして、混ぜて、冷やして、すりおろして…
混ぜて…
「はい、じゃあ、ここまでにしましょうか。」
デウィスリ夫人の言葉に、私とネロ、クラト公子は、ホッとし体の力を抜く。
やっと、終わった。
ひたすら混ぜて、すりおろしてのせいで、腕がパンパンなんだけど。
うへ…痛い。
「これで、全部冷えたら、コンジェラルチェは、完成ね。」
「コンジェラルチェは…?」
「そうよ。月の料理であるコンジェラルチェをもとに、別のお菓子を作るわ。」
全然、休憩時間なんてなかった。
「そんな顔をしないで?次のアレンジお菓子は、時間と労力がかかるものではないから。」
ニコニコと笑うデウィスリ夫人だったが、私は心の中では、もう勘弁してと思ったことは、内緒です。
「次のお菓子ですか…?」
「そうよ。でも、コンジェラルチェが冷えて固まるまでは、休憩にしましょう。」
「そうですか。」
休憩という言葉が出てきたことで、私はその場にストンとしゃがみ込む。
「疲れたぁ…」
私が座ると、ネロもクラト公子も、その場で座り込んだ。
そんな様子を、デウィスリ夫人が立ったまま、見下ろしてくる。
「あらあら、若いのに情けないわね。もっと体力をつけなさい?クラトちゃんも、こんなことで、へばってちゃダメよ。」
「いや…こんなのやった事ないから…」
「そうね。でも、料理の世界は、体力勝負ってよく聞くし、そんなんじゃだめよ?」
いやいや。
料理人になるつもりは、ないです。
食べる専門がいい。
「ちなみに、料理は馬鹿じゃ、ダメなのよ?頭と体、両方鍛えてこその真の料理人ね。」
「料理人は…大丈夫です。」
「そう?」
「はい…」
こんなに疲れる物なんだ…
料理って。
今まで、趣味で作る範囲だったけど、ここまで疲れたことなかったし。
なにより、便利な器具が揃っていたことによって、疲れ知らずだった。
だって、すりおろし器なんて、最近じゃあまり使わなくない?
そうでもない?
電動でやってくれる奴、あった気がするんだよね。
便利な世の中になったものだ。
「頑張ったご褒美に、さっきあげた、コンジェラルチェ、食べてもいいわよ。」
ネロの耳がピンと立ち、先ほど受け取った容器に近づく。
私も、のそのそとしながら、容器に近づき、スプーンを入れて白い塊を掬った。
うん、柔らかい。
そのまま口に運び、舌の上で味わうようにして、溶かしていく。
「んー。働いた後の甘いものは最高。体にしみる…」
「そうでしょ?そうでしょ?」
ネロは、無心でスプーンに掬い、パクパクと食べ進めている。
クラト公子も。
「ネロちゃん、クラトちゃんのコンジェラルチェは、どんな変化があるのかしらねぇ。面白い変化だといいわね。」
そうだ。
冷凍庫から取り出したら、ネロとクラト公子の作ったものを一番初めに見たいな。
目の前で違う変化を起こしたら、楽しいだろうな。
「そうだわ。コンジェラルチェが凍るまで、何かお話でもしましょ?そうね…クラトちゃんのコイバナなんてどうかしら?」
「デウィスリ夫人…勘弁してくれ。」
思いついたように、キャッキャとしだすデウィスリ夫人に、クラト公子は顔を歪ませる。
「そう?とても面白いのに。」
「俺の恋路を面白いと言うの…やめてもらっても?」
面白いんだ。
「そういえば、クラト公子の好きな人って誰なんですか?」
「チヒロも掘り返すんじゃない。」
アピさんと出会ったフレーブの店でシン王子が言っていたこと。
思い出している…
アピさんにやっぱり似ているのかな?
じっとクラト公子を見つめている、なんだよと言われ、顔を逸らされる。
それにしても、デウィスリ夫人の前では、クラト公子もいじられ役になるというのもなかなか面白いんだよな。
コンジェラルチェが凍るまで、私はデウィスリ夫人とクラト公子の様子をニマニマとしながら眺めていた。
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