305話 月の料理の七変化
「魔力を使うんですか?」
「えぇ。コンジェラルチェ入れる材料の一つに、魔法のエキスがあるんだけど、そのエキスが魔力に反応して、面白い変化が起きるのよね。」
プティテーラの魔力の使い方って面白いな。
刻印に利用したり、はたまた食材の一種にまでなるのか。
「力の加え方によって、変化する味や食感。これが月の料理なの。面白いでしょ?」
「はい!」
「普段人に出すときは、魔力をそこまで加えていない、普通のコンジェラルチェを出すんだけどね。」
「普通の?」
私が首を傾げると、デウィスリ夫人は、再びスプーンを持って来てくれた。
スプーンの上には、先ほどと同じく、白い塊が乗っている。
それを受け取り、口に運ぶ。
あ、甘い。
おいしい…けど、普通のジェラート…かな?
これが月の料理と言われると、今まで食べてきた四大食と比べて、物足りなさは感じるかも?
さっきのほうが、食べていて楽しかった。
「フフフ。魔法入りのコンジェラルチェを食べると、普通の物では、物足りないかしら?」
「あ…いや。おいしいです…けど…」
段々と尻すぼみになっていく言葉。
本当においしいんだけど、普通のジェラートなんだよね。
おいしいんだけど…
「誤魔化さなくても、顔にしっかり出ているぞ。」
「嘘?」
「ほんと。」
えぇ…
テンポよくクラト公子が返してくる様子を見て、デウィスリ夫人は、また笑っている。
そして、私は笑われている。
「というわけで、月の料理。七変化のコンジェラルチェを作っていきましょう。」
デウィスリ夫人が、手をパチンと叩き、始まりの合図をした。
「さて、コンジェラルチェの作り方は、至ってシンプルよ。味のベースとなるものと、お砂糖、クリームを混ぜて凍らせるだけ。」
「へぇ…」
「最初は、ミルクでやってみましょう。」
私は、ボールにミルク、砂糖、クリームを入れて、グルグルと混ぜる。
「もういいわ。」
もういいの?
「そうしたら、このバッドに入れて。」
銀色の平らな器。
よくテレビで食材が入れられている銀色の奴。
そこに、簡単に混ぜただけの物を入れる。
「そして、これを冷凍庫に入れます。」
冷凍庫に入れます…
「さて、凍るのを待っている間に、別のベースで作ってみましょう。」
デウィスリ夫人が部屋の奥から、いろんな食材を持ってくれた。
見た目判断をすると、桃、りんご、ブドウ、梨、バナナ…果物がいっぱい。
「このベースたちを、すりおろして細かくしていくの。」
目の前に渡されたのは、すりおろし器。
凍るまでただ待って、暇をしているだけかと思っただ、大間違いだった。
この摺り下ろし作業が一番疲れる。
「限りなく細かく、ペースト状にしないと、舌触りが良くないのよね。だから、頑張って。」
にっこりと笑って言われたけど、笑い事じゃない。
腕が死ぬ。
こういう時、ミキサーってないんだろうか?と思ってしまう。
ないのかな…?と思いながら、スリスリと果物をすりおろしていく。
「いいわね。いい時間つぶしじゃない。」
そんなの要らないよぉ…
お手伝いやりますなんて、言わなければよかっただろうか?
ひたすらスリスリしていると、時間が結構立ったらしい。
「冷凍庫から、出して来たわ。」
銀色の入れ物の中を覗き込んでみると、ひんやりした空気が肌に触れる。
「固まっていますね。」
「そう。それを、混ぜます。」
「混ぜる?」
「そうよ。」
入れ物の中にスプーンをいれると、凍っていて。
アイスみたい。
アイスをグルグルとかき混ぜるように、どんどんと混ぜていくと、硬かったものが滑らかになってくる。
「おぉ…」
「うん、いい感じ。そうしたら、ここで登場。七変化を可能にするエキスね。これを数滴入れます。」
そう言いながら、デウィスリ夫人は、エキスの入った瓶を傾け、液体を垂らしていく。
「さあ、混ぜて。混ぜる時に魔力を込めるの。」
「え?ここで、込めるんですか?」
「そうよ?」
「ね、ネロ…」
そんな瞬発的に魔力を操作する力を私は持ち合わせていない。
なので、その過程はネロに任せよう。
私が混ぜて、ネロが魔力を込める。
「ネロちゃん、いいわね。」
デウィスリ夫人もネロの魔力操作に興奮気味だ。
「いいわ。そして、もう一度、冷凍庫に入れる。凍ったら完成よ。」
再び、デウィスリ夫人は、銀色の入れ物を冷凍庫に入れた。
「ネロの魔力でコンジェラルチェは、どんな変化をするかな?」
「さあな。」
「楽しみだね。」
ネロと二人で作ったコンジェラルチェは、どのような物になるのだろうか?
出来上がりが楽しみだなぁ。
「さあ、待っている間は、他の作業よ。」
「え…?」
私たちに休憩時間などなかったわけだ…
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