300話 クラト公子に主導権を握られた…
「それで、今日は何をする予定だったんだ?外に出るなら、俺が案内するよ?」
朝から襲来したクラト公子は、優雅にお茶を飲みながら、ニコニコと笑っている。
「今日は、部屋の中で寛ごうかと思っていました。」
「嘘だろ?」
私がはっきり告げると、クラト公子は目を見開き、信じられないものを見るような顔で私を見てきた。
「いえ、今日は…」
特にやることも決めていなかったし、ネロもまだ寝ているしで、外に出る気力も特にないので、部屋の中で、お礼の品づくりでもしようかなと思っていた所なのだ。
そこに、いらっしゃったクラト公子。
「旅行しに来ているんだぞ?なんで、お金払って旅行しに来ているのに、部屋から出ずに部屋にこもるんだ?しかも、俺がいるんだぞ?もっと、プティテーラの観光に利用すればいいじゃないか?」
「いや…あの?」
そうなんですけど…
なぜ、そこまで必死になる?
「それなりに、滞在したと言っても、プティテーラのことを知るには、まだまだの日数のはずだ。もしかして、図書館でプティテーラの歴史や文化を調べて、プティテーラのことを知ったように思ったってことはないよな?」
「えっと…」
…確かに、少しは知った気になっていたけど、別にまだ時間あるし、外に出る機会なんてまだあるもの。
「コスモス職員は、プティテーラを見に来たんだよな?な?」
「そうなんですけど…」
だから、なんでそんなに必死なのさ。
「外に出るよな?俺に案内をさせるよな?」
なぜ、案内をしたがる…?
「…ネロもまだ寝ていますし、予定はネロが起きた後に決めますので…」
そう言って、話を逸らそうとすると、後ろのベッドからモソリと動く音が聞こえる。
後ろを振り返ってみると、ネロはベッドから起き上がり、クシクシと目を擦っていた。
この猫ちゃん、起きやがった。
今かよ。
「何を騒いでいるんだ?うるさいぞ。まだ、朝は早いだろ?」
ベッドの上で、伸びをしてもう一度丸まろうとするネロ。
クラト公子は、椅子から立ち上がり、ネロの方に行くと、ネロを覗き込む。
「おはよう、ネロ。もうそんなに朝早くないぞ?」
「ピ…」
寝起きでクラト公子の顔面ドアップは、びっくりするだろうな。
ネロから、変な声が出ているし。
「な、な、こ。」
「ん?何だ、ネロ。」
気持ちよく寝ていたネロの寝起きは、スッキリしないものに変わっただろう。
目を見開いて、クラト公子を指しているネロを見て、手を合わせた。
「おはよう、ネロ。やっと起きたね。」
何で起きたのかな?と言っても仕方がないし、朝の挨拶は大切だ。
「チヒロ!なんで、公子がいるんだ?」
「朝早くから、いらっしゃってくれたんだよ。」
遠い目をしながら、ネロに答えてあげると、ネロはふわりと浮き上がり、勢いよく、洗面台の方へ逃げて行った。
相当びっくりしたんだろうな。
「ネロをいじめないでくださいよ…」
「いじめたつもりは、全くないんだが?」
この人は!
そして、私のこともいじめないでください。
「さて、ネロも起きたことだし、今日はどこに行く?」
「あの、なんでそんなに必死に、どこか行こうとするんですか?」
ずっと気になっていたことを、この際だから思い切って聞いてみよう。
「え?だって、家の中にいるなんて言われたら、俺のやることないだろう?せっかく来たのに。」
「家の中で一緒に遊ぶという手もありますけど…?」
「いやいや。」
いやいや、じゃないよ。
この人も、人を振り回す側の人だったか…
ネロが、ブスッとした顔をしながら、洗面台から帰って来た。
「よう、ネロ。改めて、おはよう。いい朝だな。」
「俺は、あまり良く無い朝だった。チヒロ、なんで公子がいるんだ。」
「だから、朝からいらっしゃてくれたんだって。」
もちろん、私は朝からクラト公子のお相手をして、疲労困憊である。
「さぁ、ネロも起きたことだし、今日の予定でもたてようか。」
クラト公子に主導権を握られ、もう好きにしてくれと思った。
読んでいただき、ありがとうございます!
よろしければ、
評価、ブックマーク、感想等いただけると
嬉しいです!
よろしくお願いします!