298話 思わず、体が動いてしまったんです
宿泊施設に帰ってきて、まずやることと言えば、いつでも寝られるように、寝る準備をオーケーにすること。
シャワーを浴びて、着替えてベッドの上にダイブするまでが一連の流れ。
「さて、火の街で買ってきたものを確認しようか。」
袋から、買ってきた糸を出し、机の上に並べる。
机の上に並べながら、ネロがじっとその様子を見ている。
「なぁ、思ったんだが…」
「な、なにかな?」
私も思う所がないわけではないんだけど…
「コスモスの奴らにも、ミサンガを渡すのか?」
そうなのだ。
糸は確かに、プティテーラの特産品だけど、ミサンガって私の手作りになる訳で、お土産という感じではないんだよね。
「でも糸は、それぞれをイメージして買って来てるしなぁ。あいてる時間で、コツコツとミサンガづくりでもして、他にもお土産になりそうな物を明日、探してみようか?」
「食べ物にしよう。」
それネロが食べたいだけじゃなくて??
再び並べられた糸たちを見る。
シン王子とアルビナ令嬢には、みんなで選んだ、銀と黄色、オレンジと黄色の組み合わせにした。
あとは、クラト公子とナンナル王子、ラックさん、ルアルさん
用に糸を買ってきた。
アピさんとファイさんの分も、二人に隠れてこっそりと買ってある。
そして、コスモスの人たち。
企画宣伝課の人たちはもちろん、観光部の人たちにも作ってみようかなと思って、糸を買ってきていた。
「なぁ、気になることがあるんだが?」
「なに?」
ネロは、糸を物色しつつ、私の目の前に糸をずいっと出してきた。
それは、輝く銀糸の糸。
高貴な、気品のある銀糸。
「これは、誰の糸だ?」
「あぁ…それは…」
ネロが見覚えのない糸を引っ張り出し、私に聞いてくる。
私は、その糸を見て、言いよどむ。
「透き通る銀色だが…誰をイメージしたんだ?」
「それは…」
「ん?」
「トリウェア女王…」
私がぼそりと言うと、ネロは目を点にして、口をパカリと開けた。
開いた口が塞がらないとは、まさしくこのことを言うのだろう。
「お前、本気か?」
「いやいや、渡さないんだけど、その糸を見ていたら、トリウェア女王のことを思い出したというか…」
ネロは、銀の糸を恐る恐る机の上に置き、今度は綺麗な青色を目の前に出してきた。
「じゃあ、これは、まさかと思うが…」
「クヴェレ殿下…かな?」
えへ…と笑って見せると、ネロは盛大にため息をつく。
そして、次の糸を無言で目の前に出してきた。
「それは、バルドル公爵…ですね。」
「じゃあ、これは?」
「ロゼ公爵夫人…」
「本気か?」
同じことを二回聞かれたんだけど…
「だから、別に渡そうと思ってた訳ではなくて、その糸たちを見ていたら、なんか、ぽいなぁ…って思って、買わずにはいられなくなったというか。」
ジトっとした目で見られたため、慌ててフォローを入れる。
「ちゃんと自分のお金で買っているんだから、いいじゃんか。その糸を見た瞬間に、トリウェア女王だ…って思っちゃったんだもん。」
「分からなくもない。この糸を見て、俺もイメージしたのは、あの女王だ。」
「でしょ?」
「だからといって、買うか?普通。」
買っちゃったんだから、しょうがない。
もちろん、この糸で作ったミサンガを渡そうなんてことは、思っていない。
糸は買ったんだし、ミサンガを作ろうとは思っているけど。
「作るつもりでは、あるんだろ?」
「それは、もちろん。糸を買ったんだし、作らないと勿体ないでしょ?」
しれっと言う私の言葉に大きくため息をついたネロ。
「何をこそこそと悩んでいるのかと思いきや、まさか女王たちの分まで買ってきているとは、思ったよりも図々しいな。」
「その時は、アピさんとファイさんの分も悩んでいたし。だから、渡さないって。」
シン王子たちに渡せるかどうかすら、分からないのに。
でも、買うだけなら悪くないでしょ?と開き直る。
「おまえ、王族とは関わり合いたくないとか、言っていなかったか…?」
ネロの深いため息が、再び漏れたのだった。
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