297話 人に触れて、心温かくなりました
「アピさん、ファイさん、今日はお世話になりました。」
昼食をいただき、そしてまた糸選びをして、辺りはどんどん暗くなっていく。
「二人のおかげで、いい物と出会えました。」
「いえいえ、うちの糸をいい糸と言ってもらえたこと、嬉しいです。こちらこそ、ありがとうございました。それに、糸をたくさん買ってもらいましたし。」
そういって、私の手元にある袋をニコニコしながら覗き込んでいる。
白熱したのもあるが、久しぶりにしたハンドメイドに、作りたい欲が大爆発して、結果、糸をたくさん買うことになったのだ。
盛り上がりに盛り上がった…
酔っぱらっているのかと言われてもいいほどに。
もちろん、飲んではいませんけど。
「もしよかったら、出来上がりを見せてもらえると…お店でも置いてみたいな…なんて。」
「ミサンガをですか?」
「はい…コロロヴァードと意味がぴったりのミサンガ。置かせて貰えたら嬉しいです。」
ほうほう。
商売の鏡だねぇ。
「もちろん、良かったら置いてください。」
そういうと、顔をぱぁっと明るくするアピさんに、撃ち抜かれそうになる。
しばらくなかったから、慣れたと思っていたけど。
可愛い物は、やはり可愛いのである。
「じゃあ、アピ。僕も行くね。」
「うん。ありがとう、ファイ。また来てね。」
アピさんに大きく手を振ってお店を後にする。
「ファイさんも、今日はありがとうございました。わざわざ、休みだったのに。」
「いえいえ。とても楽しかったので。こちらこそありがとうございました。舟まで送ります。」
「え?いいんですか?」
「はい!」
元気いっぱいに答えてくれるので、お言葉に甘えて送ってもらうことにした。
歩きながら、街並みを見ていく。
人同士の交流が盛んみたいで、笑いが絶えない。
「…前に来た時も思ったんですけど、火の街ってなんだか温かいですよね。」
「そうですか?」
「はい。クラト公子と来た時に、思った事なんですけどね。それに、クラト公子は、大人気だったじゃないですか?」
ファイさんは、キョトンとした後に、少し考えるそぶりをする。
そして、ニパっと満面の笑みを見せてくれた。
「そうですね。火の街の人たちは、クラト公子が大好きかもしれないですね。」
「かも?」
「はい…恥ずかしながら、あまり自覚をしていなかったというか…でも、クラト公子に会うと、クラト公子に声を掛けずにはいられないと言いますか…クラト公子の言葉で気合が入ると言いますか。」
え?
あんなに人が寄ってきていたというのに?
「街の人も、クラト公子がふらっと現れて、様子を見に来ることに、あまり疑問を持っていませんし。でも、改めて言われると、街の人みんな、クラト公子に寄り過ぎでしたね…」
照れながら、ポリポリと頭をかくファイさん。
「街の人たちが温かいと言うのは、そうかもしれないです。」
「やっぱり。」
「モノづくりって、一人で黙々とやると思われがちなんですけど、モノづくりの裏で支えてくれる人たちが、大事なんです。材料や、燃料を届けてくる人たちとか。それに、代々受け継がれる技。それも、繋がりあってこそですから。それに、買ってくれる人たちとの繋がりもありますしね。」
そうか。
だから、この街は、ヒトとの繋がりが強く見えるのか。
人との繋がりって、奥が深いんだんぁ。
「いいですね。人との繋がり。」
「ですよね。」
火の街を再び眺めながら、舟までの道のりを歩く。
笑いが絶えない街並みに、心が温かくなるのを感じる。
「あ、舟、見えてきました。」
「あれですか?」
「はい。」
舟のところまで行き、ファイさんの方に振り返る。
「改めて、今日は本当にお世話になりました。」
「いえいえ。まだしばらく滞在するんですか?」
「はい。」
「時間があったら、また火の街に来てくださいね。」
「ぜひ!」
そう言って、ファイさんに再びお礼をして、舟に乗り込む。
ファイさんは、姿が見えなくなるまで、手を振ってくれていた。
「楽しかったねぇ。」
「いい街だな…」
ネロがそんなことを言うなんて、珍しい。
いつもなら、まだ街の一部しか見ていないだろう…とか言いそうな物なのに。
「そうだね。」
温かい親切に触れて、気持ちも温かくなったのだろう。
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