28話 就職祝いは異世界アイテムでした
「さて、今日から正式に働いてもらうということで、まず、旅行者ライセンスを渡そうか」
アルバートさんから手渡されたのは、カード。
これが、噂の旅行者ライセンスか。
「じゃあ、ライセンスの説明をするよ。旅行者ライセンスというのは、異世界旅行をするために必要な免許なんだ。無くさないように気を付けること。無くすと、別世界に渡れなくなるし、再発行は結構面倒くさいからね。」
世界を渡れなくなるということは、異世界で無くしたら、帰って来られなくなるということだよね。
それはきつい。
気を付けよう…
「ライセンスの機能には、まず渡航履歴というのがあるんだけど、これは、異世界に行った時と、コスモスに帰ってきたときに記載されるようになっている。別世界を経由して帰ってきても、記載される。今までどこに行ったか、そういうのが簡単に分かるようになる機能だね」
おぉ!便利じゃん!
まだ、どこにも行って無いから、記載は0。
今後、増えていくと楽しいんだろうな。
「2つ目は観光情報。旅行先の情報が分かりやすく記載されているから、何か迷ったときとかは、ここを参考程度に使ってみるのもいいと思う。ただ、すべてを鵜呑み(うのみ)にしないように。異世界では何があるか分からないから、自分の見た情報が一番頼りになると思う」
旅行のガイドブックみたいなものかな?
確かに、自分で見たものが一番信用できるのは、納得だわ。
「3つ目はステータス。これは旅行に行った回数で徐々に上がっていくんだけど、観光部では、さらに能力値とかでステータスが上がったりする。能力値というと、魔力値だったり、貢献度だったり。ステータスのランクは、E~S+。ステータスが上がると、行ける場所が増えたり、やれることが増えたりするから、観光部職員としてもぜひ上げてほしい。」
まぁ、行ける場所が少ないと仕事になんないよね。
これについては、頑張って上げていこう。
「ほかにも、機能はあるんだけど、よく使う機能はこの3つかな。他の機能については、実際使ってみてもらって、分からなければその都度、ネロに聞いてもらえば大丈夫だから。」
「わかりました」
「観光者ライセンスについて、質問あるかな?」
「大丈夫です」
実際、使ってから聞いた方が分かりやすいと思うし、ネロに頼らせてもらおう。
「ここからは、観光部からのサポート品のプレゼントね。就職祝いだと思って受け取ってもらって大丈夫だから。」
「じゃあ、まずこれね」
フェリシアさんの手元にあったのは、私の元スマホ。
家族に連絡を取ったのを最後に、結局使えなくなってしまっていたんだけど、直してくれたのかな?
「勝手にいじってしまって申し訳ないね。地球仕様のままだと、どうしてもこっちで使えないから、大分いじらせてもらって、異世界でも使えるデバイスにさせてもらったよ。システムとしては、大気中の魔力を取り込んで動く自家発電式にしてある。もちろん、直接、魔力を流すこともできるから。改造については、ほんとにすまないね。」
「いえ!むしろ、また使えるようにしていただいて有難うございました」
アルバートさんが申し訳なさそうにしてきたのに驚き、感謝を告げた。
「機能としては、連絡取り合ったり、分からないことを検索する機能だったり、いろいろあるから、これもチヒロ自身でいじってみてくれるかな。企画宣伝課のメンバーの連絡先は、入れてあるから何かあったら、そこに連絡してくれても大丈夫。」
デバイスの中を確認してみると、ほんとにいろんな機能が入っている。
あとで、なにができるか試してみようかな。
「そして、ラストがこれ。」
アルバートさんの手に乗っていたのは、ピアスの入った箱。
色は、透き通る青の色。
ネロの目の色より少し明るめかな?
「ピアスですか?」
「これ、翻訳機なんだ」
え?どういうこと?
「僕の翻訳機もチヒロに渡したものと同じでピアスタイプなんだけど、これを取ると…#。$:*#“」
アルバートさんがピアスを取ると、全く話が分からなくなった。
えぇ?
再び、アルバートさんはピアスをつけなおす。
「何言ったか分かったかい?」
これはもう、首を横に振るしかない。
いままで、言葉が通じてたのって言語が一緒だからって訳じゃなかったんだ…
ビックリである。
「この翻訳機は、イブの頭脳と魔力を利用したトラジスという製品なんだ」
イブって確か思考自立型のAIスーパーコンピューターだったよね。
アルバートさんの説明によると、
トラジスは、イブのスパコン頭脳と大気中の魔力、内蔵された魔力の結晶によってできている製品。
身に着けていると自動で翻訳してくれるらしい。
会話するとき、言葉が大気中の魔力に反応し、その魔力をトラジスに通すことで翻訳され耳に届く。
会話する片方が、トラジスを身につけていれば、魔力に反応して会話可能。
ただし、片方しか身に着けていない場合、身に着けている側が、何の言語でしゃべるのか、トラジスに設定する必要があるのだという。
だから、異世界でも私は普通に会話で来ていたのか…。
私こっちに来て、観光部の人たちとしか会話してないから、てっきり会話が普通にできるものだと思っていたよ。
「チヒロちゃんの国をチキュウというんでしょ?そういう翻訳ミスも時々あるんだけどね。あの時は、話の流れで理解したけど。」
フェリシアさんが、会話の補足をしてくれて、その時のことを思い出す。
確かに、私にも、ティエラって聞こえてた…
あれって、翻訳されきれなかった言葉なんだ…
ネット翻訳先生にも翻訳がなぜかされない単語とかあったし、そういうことかな?
「異世界の言語はイブによって常に更新され続けているから、ティエラの言葉は、チヒロから覚えたんだろうね。」
イブ先生…相変わらず、貪欲で賢いなぁ…
「トラジスの製品は、ピアスだけじゃなくて、眼鏡や、文房具もあるんだよ。」
眼鏡…
「ジェフティさんの!」
「そうそう」
「ジェフティは、自分で言語を勉強していて、もしものために、一応あの眼鏡を持っているんだ。だから、あの眼鏡をかけると、処理速度が遅くて、情報が全部頭に流れ込んでくるから、頭痛がするんだよね。魔力による処理速度を速めるとそういう現象も減るよ。」
なるほど…。
ジェフティさんって、ストイックな方なんだなぁ。
分からないことを、あの頭痛に耐えて知り、二度と間違えないように…
ちなみに、この処理速度の話は、どんな形のトラジスにも関わっているそうで、ピアスタイプも処理が遅いと鼓膜が破れそうになるほどの衝撃が来るらしい。
ピアス等のアクセサリー系の装飾による、聴覚情報の補助。
眼鏡などの視覚情報の補助。
他にも、ペンやインクなどといった文房具もあるらしい。
ペンやインクも大気中の魔力に影響され、その人が読める言語へと変化するそうで。
私が、こっちに来て読んだ契約書は、このトラジスのペンとインクで書かれたものだったらしい。
だから、ジェフティさんが提示してきた、パーソナルカードのシステムや、アルバートさんの書類は読めなかったってことね。
「理解してもらえたところで、このピアス、それからトラジスの眼鏡とペンとインクをサポート品としてプレゼントするよ」
「ありがとうございます」
「普通じゃ、手が出ないくらい高いから気をつけろよ。チヒロは壊しそうだけど」
ネロが笑いながら、からかってきたが、私はそれどころじゃない。
ネロとも普通に会話ができてる…でもピアスついてないし。
「ネロは、どこに翻訳機が?」
「俺はこれ。」
首元に着いた鈴。
猫には、鈴が付いていても、違和感ないから全然気にならなかった。
アンジュ君アンヘル君も、良く見ると耳にピアスが付いている。
大気中の魔力に反応しさえすれば、どんな装飾品でもいいのだそうで。
その中でも、聴覚情報の補助を目的としたトラジスは、耳元にあると便利ということで、ピアスやイヤリングの形式を身に着ける人が多いらしい。
ライセンスとデバイス
そして…
トラジスのピアス、眼鏡、ペンとインク
こうして、私は、就職祝いに、異世界のすごい便利アイテムも手に入れるのであった。
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