291話 世界は広いようで狭いのかもしれない?
ファイさんは、案内人としてはとても優秀で、道すがらいろいろと説明をしてくれた。
ここは、どんなお店で、こういうものを売っています…やら、ここの食べ物は美味しいですよ…やら。
モノづくりの街というだけあって、いろんなものが作られていた。
ガラス細工や、陶芸、ましてや、エネルギーに至るまで。
「火の街には、発電所があるんですね。」
「はい。今では、他の街にもありますけど、エネルギー資源はモノづくりの基本ですから。」
発電所と言っても、火力や風力ではなく、火の街名物の刻印がフル稼働して、生み出されるエネルギーである。
「火の街の人たちは、魔力を使うことに長けているな。そういう技術に特化しているというか…」
「それ、分かる。」
ネロもモノづくりに関して興味があるのだろう。
積極的に、ファイさんの話を聞いていた。
おしゃべりしながら、歩いているから、とても楽しい。
「あ、ここです。」
ファイさんが急に立ち止まり、一つの建物を指さす。
見た目は、普通の家っぽいけど…
「行きましょうか。」
ファイさんに促され、その一軒の家の中に入っていった。
ドアを開けると、そこはカラフルで可愛い手芸屋さんのようで。
「わぁ…」
「おしゃれですよね。」
「はい。とても可愛い。」
でも、ここがプティテーラならではのお店ってことなのかな?
私は疑問に思ったけど、ネロは違うみたいで。
「ここは、繊維屋か?」
繊維屋?
「正解です。ここでは、繊維を扱っています。プティテーラならではの、植物からとれた、繊維たちです。」
「採取しているのは、ナトゥラか?」
「ネロさん、正解です。よく分かりましたね。」
ファイさんはニコニコとして、声のトーンが上がる。
言い当てて貰えて、なんだか嬉しそう。
「ネロ、なんで分かったの?」
「プティテーラの…特にナトゥラで採れたものは、自然と魔力が多く含まれているんじゃないかと思ってな。魔水魚が、そうだろ?」
あ、そうか。
魔水魚は、魔力を多く含んだ魚。
魔力を多く含むことで、魔水魚は信じられない美味しさを生み出しているわけだ。
「じゃあ、ここの繊維も魔力が多く含まれているってこと?」
「あぁ、天然物の魔力。そして、繊維を糸や布に作り替える過程で練りこまれた魔力。二種類が混じっているな。」
「すごい。そこまで言い当てる人、なかなかいませんよ。ネロさんも、魔力操作が、得意なんですね。」
フンと鼻を鳴らすネロに、心の中で照れなくてもいいのに…と思った。
奥の部屋に繋がるであろう、ドアがガチャリと開き、ふんわりとした女の子が顔を出す。
「あれ?ファイ。何をやっているの?」
「あ、アピ。いたんだね。」
「当たり前でしょ?店を開いているんだから。」
「それもそうだね。」
ファイさんも和むけど、この女の子もふわふわとした感じが癒される。
フワフワおさげを揺らして、満面の笑み。
どっかで見たことあるような…?
「チヒロさん、ネロさん。こちら、ここのお店の娘さんでアピというんだ。」
「アピです。よろしくお願いします。」
アピさん…名前は初めて聞いた気がするけど、このふんわり感は見たことがあるような気がするんだよね。
どこでだ?
「アピ。こちらは、クラト公子のお客人。チヒロさんとネロさん。」
「クラト公子…あ、もしかして、火の街でフレーブを食べに来てくれました?」
「フレーブ…」
火の街でクラト公子に連れられて、フレーブは食べたけど…
「あ、もしかして、フレーブのお店で働いていた店員さん!?」
「正解です。」
そう言ったアピさんは、輝く笑顔で返してくれた。
「じゃあ、フレーブのお店は…?」
「お手伝いです。私、フレーブ大好きで、それでたまにお手伝いをさせてもらっているんです。」
へぇ…
そうだったんだ。
まさか、ここでまた出会うとは…
世界は、広いようで狭いのかもしれない。
私は、ニコニコと笑う、目の前のふんわりした可愛い女の子と、優しい笑顔のお兄さんを見ながら、そんなことを思った。
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