290話 火の街着たら、久しぶりに出会いました
「何を見るんだ?」
「うーん…」
これといって、決めてきたわけではない。
今までは、シン王子やクラト公子という案内人がいたから、うまくいっていただけなんだなぁ…
こんなことを言っては申し訳ないが、また案内役をやってほしい。
片っ端から、入って見ていくしかないのかな…
「あれ?チヒロさんとネロさん?」
二人でうんうんと唸っていると、背後から私たちを呼ぶ声が聞こえる。
声のする方へ振り返ると、優しそうなお兄さんが立っていた。
「あれ?もしかして、ファイさん?」
「正解です。覚えていてくれたんですね。嬉しいです。」
「それは、こちらこそですよ。」
ファイさんは、前回クラト公子に火の街を案内してもらった時に、出会った優しいお兄さんで、刻印店の店員さん。
月の約束の真実を確かめるため、ナトゥラに行くときに大変お世話になった方だ。
忘れるわけがない。
「忘れるわけがありません。クラト公子がお連れになったお客様ですし。お店でも刻印をたくさん買ってもらいましたし。」
えへへと笑うファイさんに、なんだか穏やかな気分になる。
「私もクラト公子に紹介してもらいましたし、お店では、お世話になりましたし。」
「同じですね。」
「そうですね。」
ファイさんの周りには、花びらが散っているのかというくらい、和んだ。
「今日はクラト公子はいないんですね。」
「前回はたまたまです。今は、忙しいんじゃないですかね。」
「それもそうか。僕、朝の発表に驚きました。クラト公子もやっぱり忙しいんでしょうね…」
プティテーラの人たちでも、あの二人の婚約発表は驚いたのか…
めちゃくちゃだったもんね。
「それで、今日は火の街へ何を?」
キョトンと首を傾げるファイさんに、目的を思い出す。
和んでいる場合じゃなかった。
「火の街の物づくりを、見て回りたくて。自分の世界のお土産にいいものがあるかなって。」
「お土産ですか?」
「はい。プティテーラの既存の物を買うのもいいんですけど、ちょっと時間もできたので、何か手作りをしてみたくて。モノづくり文化を触れることメインで、材料を探しに来たんです。」
ミシュティでも、手作りをしたし。
渡したのは、ミシュティの人たちにだけど。
「材料ですか…なるほど。」
「ファイさん?」
「手作りで使えそうなものなら何でもいいんですか?」
うーんと目の前で何かを考えこむ、ファイさん。
「手作りに使えそうで、プティテーラならではの物、ありますよ。」
「え?そうなんですか?」
「モノづくりと言われれば、いろいろあるんですけど、手作りしたいとなると、おススメの物があります。」
にっこりと笑うファイさんにワクワクが止まらない。
な、なんだろう?
「ご案内しますよ。」
「え、いいんですか?」
「はい!僕、ちょうど休憩時間だったので。」
え、ほんとうにいいのかな?
休憩時間に、案内などさせてしまって。
せっかくの休憩時間なのに。
「僕も気分転換になるので、ぜひ案内させてください。それに、火の街のことをもっと知ってもらいたいです。」
そこまで言ってもらえるなら、断る理由もないよな。
現地を知っている人に案内をしてもらった方が、効率がいいし、なにより楽しい。
「じゃあ、お願いしてもいいですか?」
「はい。クラト公子に負けないくらい、しっかり案内させていただきます。」
えっへんと誇らしげに言う、ファイさんを見て、思わず笑みがこぼれてしまう。
「助かります。私も案内してもらった分、しっかりと火の街のことを知りたいと思います。」
「はい!」
ファイさんの気合の入り方に、私も引きずられて、気合を入れる。
横で、ネロが落ち着けよという目で見てくるが、もう止まらないのだ。
「では、出発進行です。」
「了解であります。」
「…勘弁してくれ。」
ネロの声を聞こえないふりをして、ファイさんの案内についていくのであった。
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