288話 お祭りムード一色です
優雅な朝が賑やかな朝に変わり、宿泊施設でのんびり一日過ごすのも悪くないと思っていた気持ちが、どこかに飛んで行ってしまった。
ただ、のんびり過ごそうと思っていた手前、今日何をするか、何も考えていない。
取りあえず、にぎやかな街に降りて、そこら中を回ってみようかと、行き当たりばったりなことをしていた。
「朝、急に発表されたのに、どこもかしこもお祭り…って感じだね。」
「俺は、プティテーラの順応性に驚きだ。」
ネロが言うように、シン王子とアルビナ令嬢の発表が朝されたばかりだと言うのに、街中は祝福ムード一色になっていた。
アルカンシャルのお店を覗いてみると、水団子の値引きが行われていたり、婚約セットという水団子が大量に詰められた袋が売られていたりしていた。
「ねぇ、あの人たちって、観光客かな?」
「そうだな。獣耳が付いている。獣人だろう。」
頭の上には、長いピョコピョコとした耳、尾骨の方には、丸いモフモフとしたしっぽ。
尖った三角の耳に、ふさふさとした長いしっぽが揺れる。
「ウサギとオオカミだな。」
「おぉ…草食と肉食。」
他にも、プティテーラの人たちではないだろうなと思われる雰囲気の人が街を歩いている。
「観光客の人たち、結構来ているんだね。」
「そりゃ、ゲート開通したての世界は、人気が高い。新しい物、目ぼしい物がいち早く手に入る。世界を今まで開いてきてなかったんだ。独自の文化を形成しているだろ?そういうのを、異世界の人間は見に来るんだよ。」
それもそうか。
私たちもコスモスにプティテーラの歴史や文化、技術を持ち帰ろうとしているわけだし。
「でも、今更ながらに思ったんだけどさ。文化を持ち帰る仕事って、私たちじゃなくない?私たちは、旅行プランに組み込める観光スポットの視察でしょ…?」
「本当に今更だな。」
この仕事が回って来た時、凄い疑問に思ったもん。
人手不足の観光部…
「まぁ、ともかく世界を開いたばかりのプティテーラが、このようなイベントをしているとなれば、より観光は盛り上がるだろう。」
「確かに。仮面祭は終わってしまったと言っていたけど、王族の婚約イベントに当たるなんて、そうそうないし、それに、街全体も盛り上がっているから、観光客の人たちも見ていて楽しいだろうね。」
遠くから眺めていたけど、獣人の男女は、ニコニコしながら水団子にかぶりついていた。
「水団子食べたくなってきたかも…」
「水団子じゃないやつが食べたいということで、朝に魔水魚のスープを頼んだんだろ?」
「そうだけどさぁ、あんなにおいしそうに齧り付いているのを見たら、私も食べたくなっちゃうよ。」
本当に良い宣伝効果だ。
「じゃあ、水団子を食いながら、街を見て回るか?」
「…ネロも反対しないということは、食べたくなったんでしょ。」
「違う。チヒロがどうしてもというから、一緒に食べてやろうと思っただけだ。」
別に、どうしてもとは言っていないし、ネロが食べたくないなら、食べなくてもいいんだけど…
「なんだ、その目は。」
「この食いしん坊め。」
「なんだと?」
じろりと睨んできた目は、なかなかの迫力だったけど、内容が内容なだけに別に怖くない。
「獣人さんが買っていたところで買おうか。」
「おい、待て。」
私は、ネロを置いてすたすたと歩いていく。
お店を覗き込んでみると、ここでも第一王子と公爵令嬢のお祝セットというものが売られていた。
プライズカードを見て、ギョッとする。
ここのお祝セットは、水団子が48個入りと75個入りと書かれていた。
業務用?
さすがに、そんなに食べられないので、普通に個別の物に目を移す。
「へぇ…ここの水団子は、中にお惣菜が入っているものがあるのか。」
「魔水魚の水団子があるぞ。」
ネロがいつの間にか追いついて来て、私の隣で商品を覗き込んでいる。
「ほんとだ。せっかくだし、これにしようかな。」
「味付けは、タレと塩。」
「私は、タレにしようかな。ネロはどうする?」
「タレ。」
はいはい。
私は、店員さんに魔水魚の水団子タレ味を二つ頼む。
それは、すぐに渡されて、手元に来た。
「ここの水団子、デカくない?」
「デカいな。」
団子というよりも中華まんだ。
それに齧り付くと、トロっとしたタレ味の魔水魚が中から出てくる。
周りは、モチモチとみずみずしく、中はホクホク。
「うま…」
「おいしい。」
賑やかな街の中で齧り付く水団子は、最高に美味しかった。
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