285話 知識は、周りを黙らせる武器になる
なぁにと言われても…
何か話があるのではないのか?
「ロゼ公爵夫人?」
「なぁに?」
「いえ…何か話したいことがあると仰っていたので…」
私がそう問いかけると、キョトンとした顔をするロゼ公爵夫人。
なぜ、不思議そうな顔をする?
「ロゼ。」
「なによ。」
「そろそろ、手を離してあげなさい。」
ずっと掴まれっぱなしだったので、腕がそろそろ疲れてきました…
「あら、ごめんなさい。つい。」
「いえ、大丈夫です。」
「アルビナのお友達と私も仲良くしたかったのよ。アルビナはいいお友達を持ったわね。さすが、私の娘。」
ロゼ公爵夫人もアルビナ令嬢のことが大好きなんだろうな。
前、パーティであった時も、そう思ったけど。
「それで、チヒロちゃんとネロくんは、ここでなにを?」
「プティテーラについて、調べてました。調べ物と言ったら、やっぱり図書館だと思いまして。」
「そうだったの。そうね。この場所は、プティテーラ最大の知識の宝庫だもの。」
「はい。ここに初めて来たとき、本の量に驚いちゃいました。」
「でしょー。すごいわよね。一族が積み上げてきた知識の山。」
ロゼ公爵夫人は、本が好きなのかな?
「本がお好きなんですね。」
私が何気なく聞いた言葉に、ロゼ公爵夫人は深みのある笑みをした。
「それはもちろん。知識はあって損はないわ。自分の好きなことをやるためには、知識が必要よ。女は愛嬌とよく言うけれど、愛嬌だけでは、好きに生きていけないもの。知識とは、ただ頭がいいことではないわ。生きていく術、考え方、思想、歴史。知識とは、そういったものすべてに当てはまる。」
ロゼ公爵夫人の口調、雰囲気に圧倒される。
「すべてが私の一部になるのよ。学ばない手はないわ。そして、好きな人と結ばれるために、周りを黙らせるのにも、役に立つしね。」
「それは、バルドル公爵と…?」
「えぇ。私は、虹の一族の出だけど、末端も末端だったから。恋愛という文化があったとしても、ふさわしくなければ、周りはうるさいのよ。」
やっぱり、そういうしがらみというものは、あるものなんだな。
「だから、すべて黙らせてやった。」
「え?」
なんか不穏な言葉が聞こえてきた気がするんですけど…
「バルドルったら、堅物のくせにこの顔でしょ?それに、すでに太陽の一族の当主になることが決まっていたから、昔からモテたのよね。」
へぇ…
まぁ、モテたと言われても納得ではあるけど。
「バルドルに憧れている人は多かったわ。だから、五大一族内でも取り合い。」
「おい、ロゼ…?」
「それなのに、バルドルったら周りにまったく興味ないんだもの。」
「おい…」
バルドル公爵がロゼ公爵夫人に昔の話を掘り返されて、焦りだす。
「だから、まずは私が隣に立てるようにした。誰にも文句を言わせないくらいにね。」
「…そうなんですか?バルドル公爵。」
「ここで、私を見るな…」
本当なんだろうな、この反応は。
「だから、知識はいろんな意味で役に立ったわよ。」
いろんな意味で…
「トリウェア女王と仲が良いと聞きました。」
「ええ。トリウェアは、知識人だから。」
破天荒って聞いたんだけどな。
「めちゃくちゃだとでも言われた?それは、知識を追い求めた結果でしょうね。それに、彼女は面白いことがとにかく好きなの。だから、多少めちゃくちゃだけど、私は、彼女のそういう所が好き。」
「多少じゃないだろ…」
本当に何があったんだろうな。
バルドル公爵が再び遠い目をしだしたけど。
何か大変なことがあったんだろう。
「自分の望みは、自ら掴み取りにいかないと。」
「かっこいい…」
「でしょ?」
バルドル公爵は、掴み取られたわけだ。
乾いた笑いを出すバルドル公爵を見て、面白くなってしまった。
「ははは…」
「掴み取られたんですね。」
「そう、みたいだな…」
「かっこいい奥様ですね。」
私がバルドル公爵にそう告げると、バルドル公爵は優しく笑った。
「あぁ、本当にかっこいいよ。」
私にだけ聞こえる声でぼそりと呟くバルドル公爵の顔は、愛しい者を語る甘い顔をしていた。
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