284話 公爵夫人は可愛らしい方でした
「もう、絡みにいくのを止めなさいよ。」
「いっ…」
目の前で、アルビナ令嬢過激派のバルドル公爵が頭にチョップを食らっている。
一体だれが…?
「ロゼ…あのなぁ…」
「あら、人に迷惑をかけているのは、誰かしら?」
「ロゼに言われたくない。それに、迷惑などかけていない。ただ、普通に話をしていただけだ。」
シュルーク公爵夫人…
「あら、貴方たち、アルビナのお友達よね。バルドルにいじめられなかった?」
「誰がいじめるか。」
「バルドルには、聞いていません。」
おぉ…あの暴走モードのバルドル公爵をチョップ一本で止めるのか。
なかなかのやり手だ。
「大丈夫?」
「あ…はい。プティテーラについて、話をしていただいていました。」
「そうなの?てっきり、バルドルがアルビナのお友達に難癖をつけていたのかと思ったのだけど。」
シュルーク公爵夫人は、旦那さんをヤンキーだと思われているのですか?
「だから、していないと言っているだろ。」
「日頃の行いの問題じゃない?」
「おい…」
「なによぉ。私のことを置いていったくせに。」
「ロゼが、本に夢中になっていたからだろう?」
口を膨らませる、シュルーク公爵夫人を見て、バルドル公爵はため息をつく。
「一言、かけてくれてもいいでしょ?」
「声はかけたさ…」
「あら、そうなの?」
「あぁ…」
おぉ。
確かにバルドル公爵が、シュルーク侯爵夫人に振り回されている。
面白いかも。
「私も、アルビナのお友達とお話がしたいわ。」
「え…?」
バルドル公爵を通り過ぎ、私とネロの前に来たシュルーク公爵夫人。
にっこりと笑った色っぽい顔を私の顔にぐっと近づけてくる。
か、観察されている…?
美人の顔が目の前にあるのは、迫力が凄くて、反応に困るんだけど…
私は、シュルーク公爵夫人の顔をじっと見返す。
「チヒロちゃんよね。」
突然名前を呼ばれて、首を思いっきり縦に振る。
覚えてくれていたんだ…
「そして、そちらがネロくん。」
「あぁ…」
ネロ君…
ネロも驚いて、目をパチクリとしていた。
私とネロの顔をじっと見て、ニコニコと笑っている様子にドギマギしてしまう。
「えっと…?お話とは、なんでしょう?」
「……」
え、なに?
なにか、したっけ?
「アルビナを助けてくれてありがとね。」
「へ?」
「だから、アルビナを助けてくれてありがとう。」
そして、シュルーク公爵夫人は、私とネロの手を取るとぎゅっと握った。
「あ、いえ。シュルーク公爵夫人。アルビナ令嬢には、私たちも大変お世話になりました。」
「それでも、助けてくれたことは、事実でしょ?」
「助けただなんて…そんな。」
「お礼は素直に受け取っておくものよ。ね?」
うわぁ…マジで美しいなぁ…
茶色のウェーブの髪が大きく揺れる。
「ロゼ、チヒロとネロを困らせない。」
「あら、困らせてないでしょ?貴方という魔の手から守ってあげたのよ?」
ふふんと誇らしげにする様子も様になっている。
「チヒロ、ネロ。すまない。」
「いえ、バルドル公爵。シュルーク公爵夫人にもお会いできて、嬉しいので。」
「そうか。」
バルドル公爵が、謝ることじゃない。
すると、シュルーク公爵夫人は、私たちの方をポカンと見つめた後、口を膨らませた。
「ちょっと。」
拗ねたような声に私とネロ、バルドル公爵は、シュルーク公爵夫人の方を向いた。
風船のように頬を膨らませるシュルーク公爵夫人。
ど、どうしたんだろう。
「ちょっと。」
「はい。」
頬を膨らませたシュルーク公爵夫人に肩をガッと掴まれた。
わ、私?
「どうして、バルドルはバルドル公爵で、私はシュルーク公爵夫人なのよ。」
…そこ?
「どうしてかしら?」
「あ、えっと…バルドル公爵から、気軽でいいと言われたので、では名前でもいいですかと聞いたところ、許可をいただきまして…」
「ずるいわ。」
ズルいって、なにが?
「私も、アルビナのお友達と仲良くしたいもの。私のこともぜひ名前で呼んでほしいわ。」
「おい…ロゼ。」
バルドル公爵の呼びかけには答えず、じっと私たちを見てくる公爵夫人。
何がズルいのか、全く分からないんだけど…
「ロゼ公爵夫人…」
そう呼びかけると、シュルーク公爵夫人は、パァっと表情を明るくする。
「なぁに?チヒロちゃん。」
バルドル公爵の方を向くと、小さくため息をつき、特にとがめられる様子もないのでこれで正解らしい。
ロゼ公爵夫人…
破天荒…確かにそうかもしれない。
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