27話 眠いときは、無理せず寝たほうがいい
サバイバル研修を終え、転送装置でコスモスに帰還する。
良く考えると、転送装置で目的地まで飛んだということは、あの島は、異世界ではなく、コスモス内の物だったのだろう。
まぁ、研修だからな、とも思ったが、ネロは魔物が出るところに研修に行っているし、確か今回が特別なだけとも言っていた。
こう考えると、結構、好待遇で研修を受けさせて貰ったのかもしれない。
事前準備なしに、サバイバルに放り込まれたとしても。
オフィスまで着くと中には、アルバートさんやアンジュ君、アンヘル君がいた。
「「チヒロ」」
「うぇ…」
ショタツインズの勢いのある抱き着きという名の突進に、体が変な音をたてた。
毎度のことながら、容赦のない歓迎に嬉しさ半分、涙半分である。
「お帰り、チヒロ」
「研修どうだった?」
二人の言葉に、1泊2日のことを思い出す。
そして私は、
「楽しかったです」
と笑顔で言った。
「それは、よかったな。」
「はい、なかなかできない体験をしました」
「チヒロのためになったのなら、やって良かったかもしれないな。試験は行けそうかい?」
「感想ですよね、はい。書けると思います。」
「疲れているだろうし、明日でもいいよ」
「いえ、忘れないうちに書いた方がいいと思うので」
アルバートさんから、紙とペンを受け取る。
サバイバル生活での4大項目を獲得したこと、そこにいた生物や植物、そしてなにより、ネロと一緒に研修できたこと、、大変だったけど、楽しかったこと、全部。
なんか…
感想って言っても、ほんとに1泊2日で経験して思ったことや感じたことなんだけど、いいのかな?
いっか!
だって、ほんとに私が全部思ったことだし。
書いた紙を、アルバートさんに渡す。
「おつかれ様。今日は、もう上がりでいいよ。」
「はい!おつかれさまでした。」
挨拶を終え、オフィスを出る。
転送装置に入って、自分の部屋へ向かう。
部屋に入ってお風呂へ直行する。
べた付いた体が、気持ち悪い。
さっきまで気にならなかったことが、とたんに気になってきた。
急いでシャワーを浴びて出て、服を着てベッドに倒れこむ。
急に体が重く感じた。
自分が思ってるよりも、しっかり疲れていたことに気づく。
私は、布団に包まれながら、意識を手放した。
ん…
起きて、ご飯取りに行かないと…
もそもそと起き上がり、景色が違うことに気づく。
あ、そっか。
コスモスに帰ってきてたんだっけ?
たった1泊2日なのに影響力大だな…。
しばらく、引きずりそう。
全てがあると言えば言い過ぎかもしれないが、生活しやすいこの部屋に感謝し、部屋を出て、オフィスに向かった。
「おはようございます」
「あら、おはよう」
朝一番にあったのはフェリシアさん。
「お、来たね。おはよう、チヒロ」
「おはようございます」
部屋の奥から出てきたのはアルバートさんだ。
「早速、昨日の結果の話をしようかな」
結果出るの早いなぁ。
昨日、私が帰った後にやってたのかな。
アルバートさんたちはちゃんと寝れたのだろうか。
そう思うと、妙な緊張感が…
「合格だね」
……?
「合格だよ」
……
あまりにあっさりと告げられて反応できなかったじゃないか。
あれだけ苦労したんだから、もう少し喜びたかった…
くそぉ、今度から、リアクションの勉強でもしようかな。
「ネロとも話をしてね。まだ不安なところもあるけど、観光者として経験を積んでいけば、今後大丈夫になっていくんじゃないかってことだから。」
ネロがそんなこと言ってくれたのか。
確かに、今回の研修は、ネロに結構助けてもらったしなぁ。
「それに感想も楽しく読ませてもらったからね」
アルバートさんの言葉に、後ろにいたフェリシアさんが、フフッと笑い声を漏らす。
ん?そんなに変なこと書いたかな?
昨日、深夜テンションで書いたから、実をいうと書いた内容をあまり覚えていない。
必死に思い出そうとしていると、後頭部あたりをぺチっと叩かれた。
「いたぁ」
痛くはないけど、いきなり叩かれたことに驚き、思わず声が出てしまった。
後ろを振り向くと、ネロが、機嫌悪そうに私を見ている。
何かしたっけ?
「お前、あの感想文はなんだ!子供か!」
「え?」
何も思い出せない私を見て、ネロは、私が昨日書いて提出した紙を広げ、読み上げ始めた。
「いきなり無人島生活始まって大変だったけど、楽しかった。拠点、火、水、食料共に完ぺきだった。カニもどきがなぜあのような姿になったのか生態を研究したい。銛を次こそあの巨大魚に刺して捕獲してやる。次は負けない。思春期キノコの相手は、大変だった。もう少し大人に成長してほしい。そしたら食べられるようになるかもしれない。家具作りは思ったより熱中した。また新しく作る。
そして何より、この字はなんなんだ。試験受ける気あるのか!」
なるほどね、これはひどい。
やったことを列挙しただけの文章。
そして、ブレイクダンスをするかのような文字たち。
…ちょっと踊りすぎだよ。
せめて、もうちょっとお淑やかに舞踏会のダンスのように踊ってほしかった。
そんなに限界だったのに、なんで書くっていったの、昨日の私。
それにしても、良く受かったな、これ。
「ネロ、最後まで読んであげないのかい」
「はぁ、別に読まなくても、この文のひどさは、分かるんだよ。」
そういえば、ネロがもう一枚紙を持っている。
あっちも地獄のような文章なんだろうな。
「ネロと一緒で楽しかった。また、」
え?
フェリシアさんのほうを見ると、さっきまでネロが持っていた感想文。
「フェリシア、お前な」
ネロはそれを取り返そうとしていたが、フェリシアさんは、それを避け、私にその紙を渡してきた。
地獄のような文章を見ることになるのか。
紙に目を落とす。
ネロ、一緒で楽しかった。
また、一緒に行きたい。
今度は、サバイバルじゃなくて、遊べるところがたくさんあるところに行ってみたい。
それから、地球にもいつか行く約束を果たしたい。
………。
などなど、ほかにもネロとのことがたくさん書かれていた。
ネロへの手紙かな、これは?
本気で何やってるんだ、昨日の私。
これは、さっきとは違った意味で地獄みたいな感想文だなぁ。
これを提出してOKだと思ったって…
もしかして、寝てたのか??
…これは、恥ずかしい
「これでホントに合格なんですか…?」
「僕たちは、楽しませてもらったしね」
「そうねぇ、それに、楽しかったってことは、伝わってきてるしね」
アルバートさん、フェリシアさん、審査、ガバガバじゃないですか…。
その、おかげで合格もらえたみたいだけど…。
「それに、もう一つの試してたことについては、バッチリだったしね」
試していたこと?
アルバートさんの言葉に首をかしげる。
なんだろ。
「今回の試験は、チヒロとネロの二人の相性チェックも兼ねてたんだよね」
「ちょっと待て、どういうことだ?」
ん?なんで、ネロがアルバートさんに食いつくの?
「チヒロちゃんは、新人だから誰か教育係をつけようかと思って、ネロがいいんじゃないって盛り上がったから、その相性チェックをしたのよ。」
「だから、なんで俺が、お守りやることになってるんだ」
「課長は、常にいないし、私は課長の代理がある。アンジュとアンヘルには、書類とか事務仕事捌いてもらわないといけないでしょ?他の子たち今いないし。だから、ネロ。お願いね」
「…だからって」
「チヒロちゃんは、また一緒に行きたいって言ってるわよ?」
「……はぁ」
ネロが、またもや言いくるめられている。
フェリシアさんの言いくるめる最後の言葉に、私も流れ弾は食らったが。
「というわけで、ネロがチヒロちゃんの教育係として、異世界旅行に同行してくれるから。分からないことは、どんどん聞いてね。」
チラリとネロのほうを見る。
ネロは、しょうがねぇなぁって顔で私を見ていた。
嬉しくなって、ネロに手を伸ばし、ギュッと抱きしめる。
相変わらず、抱き心地のいい猫である。
「よろしくね、ネロ!」
「やめろって!」
すごく甘めに見てもらい、就職試験に合格。
私は無事、コスモスで仕事ができることになったのである。
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