282話 平和の象徴マニとアイネ
バルドル公爵は、シン王子やクラト公子が言うように、頭が固くて頑固だという雰囲気が感じられない。
「バルドル公爵は、何か図書館に調べものですか?」
「私か?私は、視察に来たんだ。街の管理も五大一族の役割だからな。」
「そうだったんですね。」
益々、いい当主、いいお父さんだよ。
「君たちは、調べ物をしていたんだろう?何を調べていたんだ?」
「プティテーラの歴史と文化についてです。今はちょうど、五大一族についての書籍を見つけたので、それを読んでいました。」
「五大一族?」
「はい。」
本をバルドル公爵の方に向けると、バルドル公爵は、そこを覗き込んだ。
「あぁ、昔は五大一族が仲が悪かったという事か。」
「本当なんですか?」
「本当だと聞いている。私の時代は、既にそれぞれの領土を街として捉え、それぞれの一族が管理する体系に変わっていたからな。領土の争いなどなかったが、昔は領土争いがあったらしい。」
やっぱりそうなのか。
それぞれの一族の人たちと知り合いになったけど、そんな雰囲気はなかったから、想像できないな。
「意外かい?」
「はい。今回、五大一族の人たちと会う機会をたくさん得たんですけど、それぞれいがみ合っている雰囲気はなかったので…」
「今はね。しっかりとした世界の体系が出来たから。だが、それぞれの領土を守るために各一族が争ったという歴史は、本当にある。そこに書かれてあるように、月と太陽は仲が悪く、雫と火も仲が悪かった。なんでだと思う?」
え?
領土のためじゃないの?
「街を守るためでは、ないのですか?」
「それもある。」
「それも…?」
他に何かあるのかな?
「分からないか?」
「はい…すみません。」
「謝らなくていい。」
分からないと言った私にバルドル公爵は、優しく微笑んだ。
「考え方が合わないからさ。」
「え?」
「性格が合わない。」
えぇ…?
「そんな理由で…と思うだろ?」
「申し訳ないですが、思います。」
「性格というのは、環境や周囲の考え方によって形成されることが多い。初めは些細な争いだったかもしれない。太陽は、行動的で、月は保守的だ。一族ごとに、性格が似ているのも、両親や周囲の環境により、子供が似た考え方を得るからだろう。そういう些細な意見の食い違いが、争いのもとになるんだ。その結果、昔はそれぞれの一族同士、仲が悪かったとされている。」
「じゃあ、いつから今のように変わっていったんでしょうか?」
考え方の違いによる争いというのは、分かる気がする。
それぞれの性格が争いを生むというのも、なんか納得だなぁ。
「さぁな。徐々に、おかしいと思った者たちが増えてきたのだろう。だが、平和の象徴として、称えられている者はいる。」
「誰ですか?」
「アイネとマニ」
「アイネさんと…マニさん…」
ここでもその二人が出てくるの?
「恋愛と言うものは、考え方を変える一種の手段だからな。」
「じゃあ、月の約束というのは、ただのプロポーズや誓いの言葉ではなく…平和の象徴だったということですか?」
「そういう事だ。そして、身分違いの恋、領土違いの恋が発展していったわけだな。今では、一族以外の人と結婚を果たす人の方が多いな。恋愛結婚というのが、プティテーラでは当たり前になったというわけだ。」
マニさんとアイネさん…
どんだけ、プティテーラに影響を与えているの?
「まぁ、今回言いたいことは、争いは些細な食い違いから始まるということだ。性格が合わないというのは、争いのもとになるんだよ。ただ、それで争いを肯定しているわけではない。ないに越したことはないからな。」
優しそうに微笑むバルドル公爵を見て、思わず笑みがこぼれる。
「なんだ?」
「アルビナ令嬢の強さは、バルドル公爵譲りなのかなと思いまして。」
「アルビナの強さは、ロゼ譲りだよ。」
ロゼ…
アルビナ令嬢のお母さまだっけ?
そうなの?
あの優しそうな、シュルーク公爵夫人が??
私の頭の中には、クエスチョンマークが飛び交った。
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