281話 令嬢のお父様
「プティテーラの歴史コーナーに来たわけだけど…」
相変わらず、圧巻と言った本の量だ。
「まぁ、今回は特定のものを探し出すわけではないから、端から読める所まで読んでいけばいいだろう。」
「うえぇ…」
「集中力のあるチヒロには、ぜひともプティテーラの歴史を集めてもらいたいものだな。」
「それは、さっき謝ったでしょ。」
「あぁ、だから別に怒ってはいないだろ?」
怒っていなくても、グチグチと言われ続けたら、気が滅入るでしょ。
「あ、この本。五大一族の話が書かれているみたい。」
「いいんじゃないか?」
「五大一族は、昔は争いが絶えなかったみたいだね。」
「シンの話だと、街をそれぞれの一族の領土として捉えていたんだろ?ならば、領土同士の争いは、どの世界でもよくあることだ。今現在、それぞれの街がプティテーラを支えているのが奇跡だな。」
争いはどこにでもある…か。
「そうだね。」
「月と雫、太陽と火がそれぞれ同盟を結んでいたと…虹は中立。」
「月と太陽って仲が悪かったの?」
「本によると、そうみたいだな。」
へぇ…今じゃ考えられないよね。
「調べ物か?」
「はい。プティテーラの歴史について調べているんです。」
「そうか。」
ネロったら、今更なんでそんなことを聞くんだろう?
ネロも一緒に調べているくせに。
…本当に何でそんなことを聞くんだろう。
私は、不思議に思い、声の方向に振り返ってみる。
「え…」
なんでここに?
後ろに立って、私に話しかけていたのは、ネロではなく…
「シュルーク公爵様…」
「やぁ。」
なぜここに?
私は慌てて椅子を立ち上がり、シュルーク公爵に頭を下げる。
「そんなに、かしこまらなくても大丈夫だ。」
「いえ、そんな。」
「シン王子たちと関わるような感じでいいさ。」
それは、大問題になると思います。
隣でネロは、笑いに耐えるためにプルプルとしている。
「えっと…」
戸惑っている私に、余裕そうなシュルーク公爵様。
「…ならば、お名前で呼ばせていただいてもいいですか?」
「名前?あぁ、かまわない。そもそも、俺のことをシュルーク公爵と呼ぶのは珍しいぞ。」
そんなことないよ。
絶対に。
「では、バルドル公爵と。」
「かまわない。すまないな。調べ物の最中に声をかけてしまって。」
「いえいえ、ちょうど休憩をしようと思っていました。」
ネロは、私の背中をバルドル公爵から見えない様につまんできた。
痛い、痛い。
「それで、何か御用があったのでは?」
「あぁ。アルビナが君たちに、だいぶお世話になったみたいだからな。お礼を言わせてもらいたいと思ってな。」
「お礼…ですか?」
「あぁ、アルビナが君たちの話を楽しそうに話してくれた。今回の婚約の件も、君たちが助けてくれたのだろう?」
え…婚約って…
「そんなに言い淀まなくていい。アルビナの行動は俺たち一族のためなのだろう?そして、俺がアルビナを追い詰めてしまったのだろう?アルビナの幸せを思っていたが、逆に追い詰めていたみたいだ。」
自嘲気味に笑うバルドル公爵。
「いえいえ。今回はアルビナ令嬢の意思だと言っておりました。親孝行がしたいと…なので、バルドル公爵が気に病む必要はないと思います。それに…」
バルドル公爵って、月の一族のこと苦手なんだっけ?
話題に出しても大丈夫かな?
それに、現在、見ず知らずの人にアルビナ令嬢が攫われている訳だよね…
「それに…?」
「アルビナ令嬢と会いましたが、幸せそうに笑っていたので、バルドル公爵の願いも叶っているかな…と。」
「あの攫ったやつは、シン王子なのだろう?」
え?
知っていたの?
「そんなものは、見ていれば分かる。アルビナはああ見えて強い子だ。気に入らないやつに人前で抱かれて黙っているはずがない。大人しく抱かれていたのが、何よりの証拠だろう。」
強いって、物理的に?
あれがシン王子ではなかったら、殴っていたということだろうか…
「そして、今日、アルビナが帰ってきてな。いろいろと準備があるから、手伝いをしてほしいと頼んできた。私のことをアルビナが頼ってくれたのだ。」
アルビナ令嬢たち、行動力凄いな。
あの後すぐに、報告したんだろうな。
「月の一族に嫁にやるのは不本意だが、アルビナが嬉しそうな顔をするから、仕方ない。」
不本意なんだ…
「これからも、アルビナの友であってほしい。」
私とネロは向き合い、にっこりと笑った。
「私たちでよければ、喜んで。」
バルドル公爵って聞いていたよりも、穏やかな人なんだよなぁ…と心の中で思った。
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