276話 恋愛とは考えるものではない
無心…無心になるのだ。
シン王子とアルビン令嬢の甘い空気に、息苦しくなり、スッと目を閉じる。
いっその事、この空気に窒息して、気絶したいくらいだ。
私も好きだよ。
甘やかされるのも、甘えるのも。
でも、他の人が目の前でイチャイチャとしていたら、なんでかは分からないけど、叫び出したくなるというか。
「面白い顔。」
「そういうこと言わない。」
最初の頃のシン王子とアルビナ令嬢は、とても微笑ましかったけど、今ではウォーッと叫び出したい。
発狂しそう。
「あら、二人ともどうしたの?」
「ケンカか?」
二人は私たちがいることを思い出したかのように、こちらに目を向ける。
「お二人が私たちの存在を忘れていたみたいなので、ネロが拗ねていました。」
「人に罪をかぶせるな。」
かぶせてないもん。
別に私もそんなこと思っていないもん。
ネロとにらみ合い、口を膨らませる。
私たちの様子を見ていた、シン王子とアルビナ令嬢は首を傾げた。
そして、アルビナ令嬢とシン王子は、爆弾を落とした。
「あら?私たち、二人がいたことを忘れていないわよ?」
え?
「ネロとチヒロの存在をなかったことにして、俺ら二人だけで話をするわけないだろ。」
えっと…
でも二人の世界でしたよね?
「そもそも私がついて来てと言ったのに、存在を忘れてシンと話し込んでいたなんて、ありえないわ。」
ありえるでしょ?
「そうだ。アルビナが、そんなことするはずないだろ。それに俺も二人には助けられた。そんな二人を無にして扱うことなどある訳がない。」
「え…じゃあ、さっき話していたことは、私たちが聞いていて問題なかった…と?」
「当然だ。」
「当然よ。」
二人がどんな話をして、どのように話を展開させていたか教えてやろうか?
それを聞いて、本当に良かったと言えるのか?
私たちがいることを認識したうえで、あの会話運びができるなんて強者過ぎませんか?
あの、二人の世界ですけど何か?みたいな話は、別に人に聞かれても困らないと…
聞かされた方は、困るだろうから、是非ともやめてあげて欲しい。
「でも、聞いていた限りだと話はまとまったみたいで…なによりです。」
「そうね。それにしても、こんなにシンとお話をしたことなんて、なかったかもしれないわ。」
「そうなんですか?」
へぇ、そうなんだ。
いや…そうか。
華麗なるすれ違いを、いつもしていたらしいし。
ちなみにこの情報は、クラト公子から。
クラト公子がシン王子の惚気話に付き合わされた時に思った事らしい。
本人は、あまりにも真剣に悩んでいるから言えなかったみたいだけど。
言わなくて正解。
この事は、墓場まで持っていく所存です。
「そうだな。改めて思うが、話すことはとても大切だ。自分の思っていることを伝える手段の一つだからだ。それをアルビナが気づかせてくれたわけだ。」
「あら、それをいうならシンだって、想いをたくさん私に伝え続けてくれたわ。私の方こそ、シンに教わったの。」
この、二人。
隙あればイチャイチャしようとするのは何?
「すごいな…意識をすると、途端に王子はヘタレに令嬢はツンツンになるが、無意識だとお互いに垂れ流す様に甘い言葉が飛び出してくるんだな。」
ネロが凄い遠い目をしている。
ネロ、耐えて。
ここはちょっとだけ空気が薄いのよ。
「うわっ…すまん。」
「いえ、私の方こそごめんなさい。」
二人の慌てた様子に、今度はなんだろう?と思った。
「手を握っていることに気が付かなかった。」
「いいえ、大丈夫よ。嫌じゃなかったから。」
手を握っていたことに…
さっきまで真剣な語り合いは、一点のことに集中でもしていたんだろうけど、それにしてもそこまで照れるの?
「そうだな。アルビナと手を繋いでいるとあったかい気持ちになるな。」
…なんで、手なの?
さっきまで、おでこコツンとかもっと至近距離で触れ合っていたじゃん。
分からない…もう分からないよ。
「恋する人たちを理解するのは、難しいなぁ。」
「恋は複雑なものなんだろ…?」
そうだね。
恋する人たちに、なぜ?なんで?を求め始めちゃだめだよね。
感じろ…ってことだよね。
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