274話 このむず痒い空気をどうにかしてください
シン王子の元からアルビナ令嬢が去ったことが、勘違いだと分かり、はい、それで終わりとはならず、現在は空に浮いた気球の中にいる。
ラックさんから貸してもらった気球は、四人乗りで、内部は車の中のように座るシートが設置されている。
車のシートの様に、前後に二列、前に二人、後ろに二人、座れるようになっていて、前にシン王子とアルビナ令嬢、後ろに私とネロが乗り込んでいる。
気球の形も、飛行機に近い…ていうか飛行機だな、これは。
プティテーラの気球って、種類ありすぎじゃない?と思う。
「……。」
「……。」
気球に乗り込んでから、気球が上昇するまで、シン王子とアルビナ令嬢は無言のままだった。
もちろん、上昇している今でも、シン王子とアルビナ令嬢は、無言のままだけど…
むしろ、アルビナ令嬢とシン王子は、窓から外を見ており、顔を合わせてすらいない。
後ろから様子を見守っていると、お互い何か言いたそうにして何かを言い出そうとして、内側を向くと、相手が外を向いているので、俯き、もう一度、外を見るという行動を繰り返していた。
私は、ネロをムギュっと捕まえ、声が聞こえない様に後ろを向いた。
「ねぇ…これどういう状況…?」
「俺が知るか。勝手に、俺まで乗せやがって。」
「仕方ないじゃない。私だけが乗ったら、気まずいでしょ。」
「俺が乗ったところで、気まずいのは変わらないだろ」
ネロは、無理やりの気球に乗せたことをプリプリと怒っているが、ここは私も譲れない。
私の精神安定のために。
「ねぇ…」
「なんだ…」
「なんで、こんなにタイミングが合わないの?」
「馬鹿だな。お互い内側を見るタイミングが合ったところで、話なんて始まらないぞ。」
ネロは、シン王子とアルビナ令嬢の方を腕で示す。
すると、アルビナ令嬢とシン王子が同じタイミングで内側を向き、お互い顔を見合わす。
目が合ったのだろうか…
数秒固まった後に、お互いに顔を逸らす。
「ほらな。」
「……うわぁ。」
この空気をどうしろと?
「ねぇ。」
「なんだ…」
「この空気をどうしろと?」
「知るか。」
ネロは、私をギロリと睨み、頬を引っ張ってきた。
痛い…
それでも、二人の様子を見守ることくらいしか、やることがないので、いくらウズウズしても、後ろから二人の様子を見守った。
外を見ると、気球はだいぶ高くまで上昇していて、プティテーラ全体が見られる場所まで来ていた。
「アルビナ。」
すると、意を決したように、シン王子はアルビナ令嬢の方を向き、アルビナ令嬢を呼んだ。
ついにか?
遂に、シン王子が思いを告げるのだろうか?
野次馬のようになっているが、野次馬しかやることがないのだ。
そして、さっきからなにも進展しないので、正直暇なのである。
「アルビナ。」
「…なにかしら?」
「君に、俺が思っていることを、ちゃんと伝えないといけないと思ってだな…」
「なにかしら?」
今度は、アルビナ令嬢がシン王子の方を向き、真剣な表情をする。
いいぞ。
「俺たち、小さい頃からずっと一緒だったよな。」
「へ?」
「子どもの頃、二人だけの秘密だと言って、ナトゥラにこっそり行ったり、カナリスの水路で競争したりして、二人で怒られた。」
「…懐かしいわね。」
思い出話を始めたシン王子に、アルビナ令嬢の緊張していた空気が和らいでいく。
「セレーネギアの中で、大人から隠れてお昼寝もしたわね。そうだ!シンが、本を積み上げて、物を取ろうとして、本の上から落ちたのも覚えているわ。すごく痛そうで、シンは目に涙をいっぱいためていたもの。」
「…それは、忘れてくれ。」
へぇ…二人にも、そういう微笑ましい時期があったのか。
昔は、いたずらっ子だったのかな?
クスクスと笑うアルビナ令嬢を、シン王子は愛しそうに見つめながらポツリと告げた。
「俺が…俺が初めて月の約束を父親から聞いたとき、俺の相手はアルビナだと思ったんだ。」
和やかになった空気に…アルビナ令嬢の顔に緊張が走った。
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