267話 月の約束を見届けさせていただきます
「来たな。」
セレーネギアの中に入ると、すぐにシン王子が今だにアルビナ令嬢をお姫様抱っこして立っていた。
この人、ここまでずっとアルビナ令嬢のことを、抱っこしてきたの?
嘘でしょ?
「あの、アルビナ令嬢は…?」
「あぁ、なんか知らないが、寝てしまってな。」
抱かれているアルビナ令嬢を覗き込んでみると、綺麗な顔をしてクッタリとしている。
これって、寝ているんじゃなくて、気絶しているんじゃない?
アルビナ令嬢の緊張が限界突破して、意識を失っているだけでしょ。
「さて、庭にでも行くか。」
シン王子が案内してくれたのは、私とネロが、アルビナ令嬢とシン王子の言い合いを見た場所。
アルビナ令嬢を、丁寧にベンチに降ろして、シン王子はこちらに向き直る。
「ナンナル、クラト、ラック、お前たちには迷惑をかけた。」
「ほんとだよ、いままで巻き込まれてきたんだから、これからはちゃんとしてよね。兄さん。」
「まぁ、結果が良ければ、いいんじゃないか?よかったな、シン。」
「俺は、今回いろいろ試せたし結果オーライだ。気球も新発注できるしな。」
ナンナル王子、クラト公子、ラックさんはそれぞれ優しく微笑んでいる。
「それから、チヒロ、ネロ。君たちの協力があったから、俺の目的が叶った。本当に感謝する。」
「それを言うなら、私たちもちゃんと約束を守ってもらったので、お互い様です。」
「あぁ、いい経験が出来たんじゃないか?」
「ありがとう。」
うん、とてもいい笑顔です。
「じゃあ、兄さん。俺はクラトとラックを連れて遊びにでも行ってくるよ。」
「は?」
「何言っているんだ?」
「じゃあ、またね。チヒロ、ネロ。」
ナンナル王子は、文句を言うクラト公子とラックさんを引きずりながら連れて行ってしまった。
「ん…」
「アルビナ?」
「シン…?」
アルビナ令嬢が目を覚ましたみたい。
「それに、チヒロとネロ?」
「アルビナ令嬢、大丈夫ですか?」
「えぇ…ここは…?」
「セレーネギアだ。」
目覚めたばかりのポヤポヤしたアルビナ令嬢が可愛いんですけど…
「シン…あなた。」
「約束を果たしに来たんだ。待たせてすまない。そのティアラ、受け取ってくれないか?」
「これがマニがアイネに渡した石?」
「そうだ。」
「素敵ね。」
…二人の世界になっていませんか?
これ、ナンナル王子たちが帰ると同時に、私たちも帰ればよかったのかな?
「チヒロ達には、俺たちのことを見届けて欲しかったから、ここに呼んだんだ。」
「見届ける?」
「あぁ、俺たちの月の約束を。」
なるほどね。
でも、その役割は私たちでいいのか?
「君たちに頼みたかったんだ。」
私とネロは、シン王子の言葉に顔を見合わせ、にっこりと笑った。
「それは、もちろんです。」
「ありがとう。」
「ねぇ、チヒロ、ネロ。貴方たちがシンを助けてくれたのね。ありがとう。それに、シンは本当に来た。」
「当然です。アルビナ令嬢がずっと信じていたんですから。」
「…そうね。」
アルビナ令嬢は、複雑そうに笑う。
「あの、お二人は、婚約発表をするんですか?」
「な、なにを言っているの?」
「え?しないんですか?」
慌てて答えるアルビナ令嬢に、首を傾げる。
「するに決まっているだろ?」
ですよね。
シン王子ったら、吹っ切れてから、容赦ない攻め方なんだから。
「いつ、するんです?」
「そうだな…明日にでもするか?」
「明日?何を言っているの。馬鹿なの?準備というものがあるのよ。」
そして、アルビナ令嬢は照れているのか、口が悪い。
その様子を嬉しそうにほほ笑み返すシン王子に、アルビナ令嬢も口を閉じた。
あぁ…甘いなぁ。
空気が甘い。
「二人の婚約発表、楽しみだね。」
「ここまで見てきたんだし、二人を見届けるまでは、帰るに帰れないしな。」
「そうだね。」
本来の私たちの仕事は、プティテーラの外交パーティに参加すること。
ずいぶん長居してしまったけど、もう少しだけプティテーラに居てもいいよね。
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