265話 溺愛っぷりに、胸やけがします
「アルビナ、似合っている。」
「これは…」
「月の約束の石さ。この暗闇をも照らす太陽の石。アルビナにぴったりだろ?」
「これが月の約束の…」
「そうだ。」
力強く告げるシン王子の言葉で、アルビナ令嬢の瞳には涙が浮かぶ。
太陽の光によって、照らされた涙がキラキラと輝いていた。
「私は別に良かったのに…」
「いや、俺を君との約束すら果たせない男にしないでくれ。」
「そんな」
「これは俺のわがままだった。なのに、アルビナは、ずっと待っていてくれた。これからは、もう待たせない。俺は君と笑い合える世界を生きるよ。」
「え…あの…」
ははは…
シン王子ったら、絶好調じゃないか。
どうしよう…
見てて恥ずかしい。
チラリとナンナル王子とラックさんの方を見ると、アルビナ令嬢に負けないくらい真っ赤になって俯いていた。
身内の恋愛を目の当たりにして、どうしていいか分からないと言った感じかな…?
ネロは、マイペースに貰った飲み物をズコズコと啜っているけど…
ちょっと…音は気を使った方がいいって。
「よぉ…」
声の方を向くと、ゲッソリとしたクラト公子が立っていた。
「シンのアルビナ嬢に対する溺愛ぶりは知っていたけど、実際に本人を目の前にすると、胸やけがするな…」
「クラト公子…おつかれ様です。こっちに来ても大丈夫なんですか?」
「俺が向こうにいても、もうやることがないだろ。しかも俺がいたのは、あいつらがイチャついているすぐ後ろだぞ。もう勘弁してくれ…」
だいぶ精神的に来たらしい。
クラト公子は、飲み物を受け取ると、一気にそれを飲み干す。
「クラト…」
「いいだろ…どうせ全員、あの二人に釘づけだ。」
まぁ…そうなんだけど。
「これいつ終わるのでしょうか…」
「アルビナ嬢…」
シン王子は、今まで言わなかった分があふれて来ているかのように、アルビナ令嬢に甘い言葉を吐き続けている。
そして、アルビナ令嬢は、そのたびに顔を真っ赤にさせて、黙り込み、その様子を見てアルビナ令嬢があまりにも愛されている様子に、周囲が色めき立つ。
カップル成立のときのお祭り騒ぎとは、また違った賑やかな空気…
あぁ、推しを眺めて、尊い…ってなっている時に似ているかもしれない。
「シン王子、このまま大暴走しないですよね?」
「大暴走って…?」
「いや…襲い掛かる的な…」
「考えたくもないんだけど。」
それはそうだ。
でも、ないとは言わないのね…
ナンナル王子。
そして、頷くな。
クラト公子。
「アルビナ、二人っきりになれるところに行こう。」
「何を言って…」
キャー
アイドルかな?
賑やかだなぁ。
アルビナ令嬢の反論は、会場の黄色い声にかき消される。
ちょっと、紳士淑女の皆さん、しっかりして下さい。
シン王子は、アルビナ令嬢のおでこに口づけをすると、会場の方に顔を向けた。
もちろん、アルビナ令嬢はおでこを抑えて、顔が真っ赤である。
「会場の皆さん。」
透き通るようなシン王子の声に、静まり返る会場。
「今宵、アルビナ主催のパーティの参加、誠に感謝する。そして、婚約発表…私がアルビナを攫ってこのパーティは終了だ。あとは好きにするがいい。アルビナ。」
「…な、な!」
会場に言いたいことを言うと、シン王子はアルビナ令嬢をお姫様抱っこして階段から降りてくる。
コツコツと歩く姿に、また人の道が出来ていた。
私たちの目の前を通り過ぎて、窓の柵を飛び降りる。
なんで、ここから出るのか分からないけど…
シン王子とアルビナ令嬢が去り、静まり返る。
「これで、パーティはお開きということですかね…」
「振り回すだけ、振り回して去っていったな…」
まぁ、これこそ、シン王子と言ったところだろう。
これで丸く収まったのかな…?
はーあ…帰って寝よう。
「チヒロ。」
「なに?ネロ。」
「これ、さっきの去り際に俺に押し付けて行った。」
紙?
シン王子が?
「なんだろう?」
紙を開いてみると、そこには文字が書かれていた。
「セレーネギアにて、待つ。」
……なんで?
「行くのか?」
「いや、え?今日?もう遅いけど?」
いやいや、帰りたい。
今日、カナリスに帰って来たばかりだよ?
また、ゆっくり寝たいけど?
「あれ?二人とも、セレーネギアに行くの?俺送って行ってあげるよ。」
ナンナル王子は、帰るだけでしょ。
「もちろん、ラックとクラトも一緒に行くしね。」
「え?」
「いや?」
ナンナル王子?
ラックさんとクラト公子は、初めて聞いたという顔をしていますよ。
「みんなで行こう。行くよね?」
にっこりと笑った、ナンナル王子の笑顔の圧に勝てず、私たちはセレーネギアに行くことになった。
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