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263話 やっと月の約束を果たしに来ました


シン王子のアルビナ令嬢を呼ぶ声に、会場が静まり返る。

シン王子も仮面をつけていて、突然出てきた男が、アルビナ令嬢に求婚をしている様子になっている。

…大丈夫かな、さっそく不安なんだけど。


「どなたか存じ上げませんが、これから私の婚約パーティが始まります。なので、」

「アルビナ。」


素直じゃないアルビナ令嬢は、絶対に誰だか気が付いている。

知らないふりをしようとしたアルビナ令嬢を、声だけで制す。

カツカツと歩いていき、アルビナ令嬢のいる方へ。

一歩ずつ歩みを進めている。

その美しい歩き方、存在感に、自然と人の道が開いていく

シン王子は、立ち止まらずどんどんと先へ…

階段を上り、ついにアルビナ令嬢の横へたどり着く。


「アルビナ。」

「な、なにかしら。」


アルビナ令嬢の手を取り、そっと口づける。


「月の約束を果たしに来ました。」

「え…?」


キョトンとしたアルビナ令嬢を見て、シン王子は優しく微笑んでいる。

あれは、月の約束でマニがアイネに言った言葉だ。


「月の約束を果たしに来た。月の光に導かれ、その扉の向こう側に行ってきた。これは、お前のために用意したものだ。どうか受け取ってほしい。」


そして、ゆっくりと丁寧に、アルビナ令嬢の頭にティアラを乗せた。


「あのティアラ…」

「ペレの石で出来たティアラだな。」


闇夜を照らす、太陽の石。

それで作られたティアラ。

アルビナ令嬢にぴったりだなぁ。


「もしかして、シン王子がここまで遅かったのって、あのティアラを作っていたからかな?」

「それもそうだが、あいつ今回のパーティ招待されていなかったみたいでよ。それで、侵入できるところを探していたら、遅くなったんだよ。」


またしても、後ろから聞いたことがある声がする。


「ラックさん!」

「よぉ…遅くなってすまないな。心配させただろう。」

「はい。とても。」

「容赦ないな…」


だって、凄く心配したんだもの。

間に合わないかもしれないって、思ったもの。


「あぁ、泣かないでくれって…」

「ラック、そんななりして、女性の涙には弱いのか?」

「ネロ…揶揄うのは、やめてくれ…」


疲れ果てているラックさんは、よりゲッソリしているように見えた。


「二人であのティアラを?」

「あぁ、二人が帰った後に、アルビナに渡すならティアラだと言いだしてな。あの後、即行で準備に取り掛かって、ティアラづくりだよ。」

「なぜにティアラ?」


プティテーラでは、指輪じゃないのか…?


「俺も、なんでと聞いたら、太陽の石が入ったティアラが一番似合うのはアルビナだ。と言っていてな…王妃の冠だし、なにより太陽が照らすものは首や指につけるより、頭にあった方がいいだろ…だとよ。」

「シン王子にしては、なかなかやりますね。」


再び二人の方を見ると、優しく微笑んでいるシン王子と、真っ赤になって戸惑っているアルビナ令嬢がいた。


「アルビナ嬢…兄さんからストレートに思いを伝えられたことがないから、戸惑っているんだろうね。」

「な、ナンナル…」

「やぁ、ラック。兄さんを送ってくれてありがとう。おかげで間に合ったみたいで、なにより。不法侵入は不問にしてあげるよ。」

「た、助かるな…」

「でも、ラック。俺もあとで話がしたいな。」

「いや…遠慮しておくよ。」


すごくいい笑顔のナンナル王子。

それは、断って正解だろうと思います、ラックさん。


「お話しようね。」


ナンナル王子は、全く逃がす気がなさそうだけど。


「ナンナル?ほら、シンとアルビナ嬢を見ていなくていいのか?」


先ほどまで、シン王子とは知らないために、微妙な視線を向けていた会場に少しずつ変化があるように見えた。

月の約束の効果なのか、はたまた圧倒的なシン王子の雰囲気のせいなのか。

二階で行われている、ロマンチックな恋愛劇に目をキラキラさせながら、様子を見守っているのだ。

全く、大衆すらも操ってしまうなんて、ヘタレ王子って言った事、謝らないといけないかもな。

まぁ、これがうまくいったら、謝ろう。

私も、大衆の一人として、この月の約束を見守ることにしようかな。

読んでいただき、ありがとうございます!


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