258話 令嬢からの挑戦状
シン王子は、まだ来ない。
それに、さっきまで使用人の姿でいそいそと働いていた、アルビナ令嬢を見当たらなくなっていた。
「あれ?アルビナ令嬢がいなくなってる?」
「私が何かしら?」
いきなり話しかけられたこと驚き、声のする方に顔を向ける。
するとそこには、フルフェイスの仮面をしてドレスに着替えたアルビナ令嬢らしき人がそこにはいた。
なにで判断したかというと、声で判断しました。
だって、仮面で本当に誰か分からない。
「あ、アルビナ令嬢?」
「そうよ。私が何かしら?」
「あ、いえ。先ほどまで、あの机のあたりにいたのに、どこに行ったのかと思って。」
「そろそろ、父たちも来るだろうし、着替えてきたのよ。」
アルビナ令嬢が何でもないことのように言った、その言葉に本当にそろそろタイムリミットかもしれないと悟る。
「ちょうど、チヒロとネロを見かけたし、挨拶でもしておこうかと思ってね。私が招待したんだもの。」
私たちも一応仮面をしているから、そんなに簡単に見つけられても困るんだけど…
「やっぱりネロが目立っているんじゃない…?」
「仕方ないだろ。」
そうだけど、ナンナル王子とクラト公子も簡単に私たちを見つけて、こっちに向かってきたし、アルビナ令嬢にも見つけられたし…
なんだかなぁ。
あ、そうだ。
アルビナ令嬢に挨拶をしていなかったな。
「アルビナ令嬢。」
「なに?」
「ご招待いただきまして、ありがとうございます。」
あのキツイ態勢だけど、誠意をいっぱい込めて挨拶をする。
がんばれ、私の足。
「ご丁寧にありがとう。こちらこそ、来てくれて嬉しいわ。顔を上げて。」
そして、アルビナ令嬢もあのキツイ態勢になりスッとお辞儀をした。
「ナンナル王子、クラト公子。お久しぶりでございます。本日はお越しいただきありがとうございます。」
「お招きいただいて、光栄だよ。アルビナ嬢。」
「こちらこそ。」
ナンナル王子とクラト公子は、胸に手を当てて軽く礼をする。
これが、王族と貴族同士の挨拶…
「チヒロとは雲泥の差だな。」
「分かってますけど?」
ネロの言う通り、佇まいから全然違うし、一つ一つの動作が滑らかで、綺麗。
なにより、自然の動きをしているから、不快にならない。
これは、凄いなぁ。
三人の様子に見とれていると、ナンナル王子がパチンと手を叩く。
「まぁ、社交的なことは、これくらいで、いつもどうり気楽にして。」
「ありがとうございます。」
アルビナ令嬢は、顔を上げて、いつもの凛とした立ち姿に戻った。
アルビナ令嬢、本当凛々しいなぁ…
そう思い、アルビナ令嬢の方を見ていると、令嬢がキョロっと何かを探した様に目線を動かした。
もしかして、シン王子を探している…?
そして、そのことにナンナル王子とクラト公子も気が付いたみたいだ。
「アルビナ嬢、兄さんは少し用事があって遅れているんだ。」
「そうですか」
ナンナル王子がそう言うと、アルビナ令嬢は一瞬驚いた様子を見せ、すぐに優しそうな声が聞こえてくる。
あんなに驚くということは、無意識に目で探していたのかも…
「それより、チヒロ、ネロ。パーティは楽しんでいるかしら?」
「それはもちろん。仮面パーティなんて初めてで、とても楽しいです。」
「賑やかでいいな。」
急な話の転換に驚きはしたけど、パーティ自体は、とても楽しい。
それはネロも一緒みたいで、二人で笑いながらアルビナ令嬢に告げる。
「それはよかったわ。だって、二人は私が招待したんだもの。」
「仮面パーティは、アルビナ令嬢の提案だと聞きました。プティテーラの仮面祭が終わっていると聞いたので、残念に思ったのですが、まさか、仮面パーティに参加できるなんて思っても見なかったです。」
「想像以上に喜んでくれているみたいで良かったわ。」
顔は見えないけど、声で表情が分かる気がする。
あと、目。
目は、口ほどに物を言うとは、よく言ったものだ。
「アルビナ令嬢の仮面は、フルフェイスなんですね。一瞬誰だか分からなかったです。」
「そうでしょう。面白いし。」
面白い?
「まだ来ていないみたいだけど、私のこと見つけられるかしらね?」
え?
まさか、そのフルフェイスって、対シン王子用なんですか…?
「楽しみね。」
おいおい…
いろんな人を盛大に巻き込んで、痴話げんかをするんじゃないよ。
クラト公子は、そのことに気が付いていたのか、苦笑いをしている。
「クラト公子?」
「アルビナ嬢が、どうしてもフルフェイスだと言って聞かなくてね…」
えぇ…
ハードル上がってしまっていますけど…?
シン王子、貴方が来ない間に、状況がどんどん変化していますけど…
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