256話 忘れられない二人のダンスは…?
ダンスを終えて、元居た場所に戻ると、ナンナル王子とクラト公子が笑いながら出迎えてくれた。
「良かったよ、二人のダンス。もっと中央で踊ればよかったのに。」
「そうだな。楽しそうで目がいったな。」
楽しくて夢中だったけど、そっか。
人に見られていたのか。
「いやいや。猫と踊っているって、なかなかに驚かれる光景では?」
私は楽しかったけど…
「なんで?仮面舞踏会だよ?どんな相手と踊っていようが、関係なくない?」
「身分も立場も関係ない。それが仮面舞踏会のいいところだろ?」
そっか。
そうなのか。
仮面舞踏会って、そういうものなのか…
なんかいいなぁ、そういうの。
「でも、私は周りに目が行き過ぎると、緊張が半端ないんで、あの場で良かったです。十分、楽しかったので。」
まさか、踊らせてもらえると思わなかったしね。
これって、お姫様体験しちゃったんじゃないの?
「ネロ、ありがとね。」
「別に。」
何事もないように言うネロを捕まえてギュッと抱きしめる。
「おい、やめろ。」
「そうだね。」
「話を聞け。」
腕の中で暴れるネロを無視して、もう一度ダンススペースを見る。
うん、綺麗。
「そういえば、ナンナル王子とクラト公子は、踊らないんですか?」
私が何気なく問いかけると、二人ともギクッと体を震わせる。
え、なに?
「どうせ、誘われるのが困るから逃げているんだろ?」
「なんてこと言うの、ネロ。」
「本当のことだろうが。」
私には踊らないの…?とけしかけておきながら、二人は逃げてきたんかい。
「俺は、この後の婚約パーティの可能性により、踊ることを自重しているだけだ。」
それは、納得かも。
ダンスパーティでもし踊っていることがバレて、その後に婚約パーティで紹介されるなんて、節操がなさすぎる。
「俺は、今日は大人しくしているつもりだから、いいの。せっかくの休みなのに。」
仮面舞踏会に参加することは、休みのうちなの?
「でも、さっきから、ちらちらと二人を見ている視線がいくつもあるんですけど。」
「口に出すな、気が付いているんだよ。」
あ、やっぱり気が付いているんだ。
「目を合わせないでね。」
そんなに?
そういうのであれば、合わせない様にするけど。
もう一度ダンススペースの方へと目線を向ける。
ナンナル王子とクラト公子は、どんなダンスをするのだろう。
自分が踊ったからかなぁ。
ダンススペースを見て、綺麗だけど物足りなさを感じてきた。
どうしても、記憶から離れないあの美しいダンス。
ダンスというものが全然分からない私にすら、目を奪われるほどの圧倒感。
私が比べるなんておこがましいけど、それでも忘れられないあのダンス。
もう一度見ることは叶うだろうか…
「王族の人って、みんなダンスがうまいのかなぁ…?」
「なに?急に、どうしたの?」
私の呟きを拾い、ナンナル王子は首を傾げる。
「あぁ、いえ。初めて見たシン王子とアルビナ令嬢のダンスを思い出してしまって。私、ダンスに詳しくないんですけど、それでもあの二人が圧倒的で目が奪われたんですよね。」
その光景を思い出しながら言うと、自然と笑みがこぼれてくる。
「あぁ…あの二人は、本当に息があっているよね。」
「それに、思い合っているよな。」
「え?」
あの後、大喧嘩していましたけど…
「王族や貴族は、ダンスマナーを叩きこまれるけど、あの二人は別格かもね。」
「いや、あの二人が別格というより、あの二人が組んだら別格なんだろ?」
どういうこと?
「兄さんもアルビナ嬢もダンスは本当にうまいけど、二人が別の人と組んでも、まぁ、うまい程度なんだよね。」
「シンと、アルビナ嬢が組んだ時、あの圧倒的なダンスが見られるんだよ。」
え…?
「それを当人達以外は気が付いているんだよね…本人たちがどう思っているか知らないけど。」
なんだよ。
ダンスしながら、盛大に惚気ているのを見せられていたってこと?
めちゃくちゃいいコンビじゃん。
なのに、本人たちは、あの後、言い合いをしていたと…
「あの二人はいいパートナーなんだよねぇ。」
「だから、さっさとくっ付けと言っていたのに…」
ナンナル王子は呆れ、クラト公子は愚痴をこぼす。
「これは、シン王子とアルビナ令嬢に何とかしてもらいたいですね。」
あのダンスは二人の象徴。
本当に何とかならなかったら、あのヘタレ王子どうしてやろうか…
私は心の中で、文句を言うのだった。
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