245話 腹が減っては何もできない
「ん…あれ?ベッドの上?」
いつの間にベッドの上に来たんだろう。
寝る前の記憶を辿ってみる。
えっと、覚えている範囲だと、観光案内所に着いてラックさんに会ったことまでは覚えているんだけど。
ここまでどうやって帰って来たんだろう。
結構距離あるよね、ナトゥラの観光案内所から、アルカンシェルのこの場所って。
隣を見ると、ネロがいる。
ネロがいるということは、何事もなく帰って来れたと思ってもいいのだろうか?
…え?
朝起きて、どうやって帰って来たか分からないって、ここまで怖いことなの?
まぁ、まず間違いがあったとは思わないんだけど…
何かをやらかして、周りに迷惑をかけていたかと思うと怖すぎる…
うわぁ…どうしよう。
ネロは気持ちよさそうに眠っている。
ネロがここまで寝ているということは、もしかしてネロに迷惑をかけたとか?
うーん。
眠っているネロを起こしてまで確かめるのは、さらに迷惑をかけるよなぁ。
起きるのを待ってから、さりげなく聞いてみようかな。
時計を見て、まだパーティーまで余裕があることを確認して、安心する。
「寝過ごさなくて、よかったぁ。」
アルビナ令嬢がせっかく誘ってくれたのに、寝過ごすなんてできないよね。
それに、シン王子にも見守ってますみたいなことを言った気がするし。
パーティーか…
何を着て行けばいいんだろう。
前回のパーティーは、プティテーラの外交パーティーだったけど、今回は一応、婚約パーティーな訳だから、よりどうすればいいか分からないんだよね。
そもそも、そのような場所に行くことを想定して、プティテーラに来ていないのだ。
初めに招待されたときも徹夜で学んだわけだし、今回もマナーとかあるのかな…
こればかりは、私だけではどうしようもないんだけど。
寝かせておいてあげたいと思ったばかりなのに、起こすしかない事案が出て来て、笑うしかない。
ネロ、ごめん。
あと少しだけ寝て貰ったら、その後、起こさせていただきます。
ぐうぅううう…
「乙女とは思えない、お腹の鳴り方…いや、お腹なんて誰でも鳴るでしょ。生理現象だし仕方ないでしょ。」
誰に言っているのか、よく分からない言い訳をして、冷蔵庫の中を覗いてみる。
「ある訳ないよね…」
一日、部屋を開けること確定しているのに、冷蔵庫の中に何か詰めるわけない。
エントランスで何か頼めたはずだよね。
そこで頼もうかな。
「ネロも起きたら、何か食べるかなぁ。」
「食べる。」
ん?
「俺も、食べる。」
声のする方を見ると、ベッドの上で体を伸びっとして、顔をクシクシとしているネロがいた。
「起きたの?」
「チヒロの腹の音で…」
「えぇ…」
もう少し寝ていてもらおうと思ったのに、私のお腹の音で起こしたのかい。
恥ずかしすぎるし、申し訳なさすぎる。
「冗談だ。もう少し前に起きていた。」
「それはそれで、お腹の音を聞かれているということだから、恥ずかしいけど?」
「腹の音は、諦めろ。しっかり聞こえていたから。」
勘弁してくれ。
「それで、何を食べるんだ?」
何事もなかったかのように流されるのも、心に来ますけど?
「水団子を頼もうかと。」
「いいな。名産だし、前回は外で買ってきたものだ。」
「虹色の水団子あるかな?」
「頼んでみればわかるだろ。早く頼もう。」
部屋の中にある電話で、エントランスに電話をしてみる。
「あの、ルームサービスをお願いしたいんですけど。はい…水団子をお願いします。あー…二人分で。はい…ありがとうございます。お願いします。」
ガチャリと電話と切る。
「オッケーだって。…なに?」
「いや、思った以上に余所行きの声だよな。」
「人に電話する時はこんな感じじゃない?」
「そうか…」
友人の声でも、だれか分からない状態で電話を取ったら、当てられない自信がある。
それくらい、電話の時って声が変わる気がする。
ネロは、変わらないのかな…?
いや…前に観光部で電話対応しているのを見たけど、誰だ、お前って感じだったでしょ。
「それは、丁寧な対応を求められているからだろ?」
「今もそうでしょうが。」
ネロと電話の話で議論をしていると、ドアの前でノック音が聞こえ、水団子が届いた。
腹が減っては、何もできない。
水団子を食べながら、先ほどの議論に熱を入れるのだった。
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