244.5話(1)番外(ネロSide)王子様とネロ
舟に乗ったとたん、チヒロの力が一気に抜けた。
「ようやく寝たか…」
滝の中に入ってから、ずっと起きていたチヒロ。
俺と、シンを寝かせてチヒロだけが起きていたことを知った時、正気かと思った。
それに気が付いたのは、俺が起きた後、カップラーメンを作りながら、俺らを起こしていた時。
俺が寝ていて、シンが寝ていた。
チヒロが早く起きた可能性もあったが、目はトロンとしていた。
寝起きではなく、間違いなく、チヒロは寝ていなかったのだ。
結果的に一日中起きていることになった、チヒロに驚いてしまった。
普段はのほほんとしているチヒロだが、こういういざという時の思考力や発想力は目を見張るものがある。
今回の月の約束も、チヒロはずっと頭を使っていたしな…
「良く寝なかったな…寝ればよかったのに。」
どうせ、起きられないかもしれない、三人寝て寝過ごしたら大変だとでも思ったのだろう。
舟を運転しながら、俺はそんなことを思った。
ふと、チヒロの方を見ると。
生きているのか分からに程に、微動だにしない。
深い眠りに入っているのだろうか?
物事を怖がるくせに、怖いもの知らずのように突っ込んでいき、物分かりがいいように見えて、負けず嫌いの頑固さを持ち合わせている。
今回の月の約束は、チヒロの性格がよく出たと思う。
まぁ、月の約束の地下に潜る前からそうだったな…
それにしても、月の約束のことを調べ始めてからは俺もいろいろあった。
特にシンとの関係。
ナトゥラを下見しに行き、ナトゥラへ一泊した日。
シンと俺が早く起きて、カップラーメンを啜った日のことを思い出す。
「起きたのか?早いな。」
「王子こそ、早起きですね。」
「俺は、ナトゥラにいる時は、いつもこんな感じだ。」
「チヒロは、まだ寝ているのか?」
「基本的に朝は弱いんです。」
いつも俺が起こしているくらいだしな。
チヒロは、俺のことを目覚ましだとでも思っているのだろう。
「仲がいいな。」
「そうですか?俺はあいつの教育係なので。」
「教育係がそこまで世話を焼くのか?」
言われてみればそうだな…
そこまで世話を焼く必要がない。
「それに、ネロ。君を見ていると何か不思議な感じがするな。」
「不思議…とは?」
「そうだなぁ…猫の姿をしている別の何か…とかか?」
「なんのことですかね?ちなみに、猫ではなく虎ですけど?」
俺のことを伺うように見てくる王子。
俺もこういう場面には、慣れているため動じはしない。
「虎か。ただ、本質は人に見えるな。」
ここまではっきり言い当ててくる奴は、あまりいない。
アルバートや観光部の中でも一部の奴らだけだ。
「当たりか?悪いな。どうしても気になったんだ。触れられたくない部分だったらすまない。」
「まず、気が付かれるとは思わなかったですが、気が付いたとしても触れてくるとは思いませんでした。」
嫌味いっぱいに王子に皮肉を言う。
すると、王子は申し訳なさそうに笑った。
「すまない。なんで隠しているのか、見ていたが分からなくてな。何か理由があるのだろうが、それは聞かないから許してくれ。」
「…別に。それより、なぜ分かったんですか?」
王子は、フムと顎に手を当て、考えるポーズを見せる。
「魔力の流れが面白いと思った。」
「魔力の流れ?」
「あぁ、体に流れている魔力の流れだ。猫にしては、量が多く、そしてドロドロしている…」
ドロドロってなんだよ。
「人らしい感情が、魔力から感じたということだな。」
「意思のある動物だとは思わなかったんですか?」
「それにしては、自制心がある。持て余す感情があるにも関わらず、それを抑え込む感情をしっかりと持ち合わせている。知性もあり、複雑な思考も可能にしている。そういう動物がいるのかもしれないが、俺が知っているのは、ヒトという生物のみだ。まぁ、ヒトにしては、色々感じる所があるが…」
そんなことでバレるのか…
今後気を付けなければいけない。
今、それを指摘されたのはデカいな。
「それで、俺の話を持ち出して、王子はどうしたいんですか?」
こいつは何を考えているのだろうか。
俺は、にっこりと微笑み、王子を見つめた。
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