243話 眠いときこそ、意識をしっかり
二人の言い合いがようやく収まり、目の前ではラックさんとシン王子がゼーゼーと呼吸をしていた。
どれだけ、全力で言い合いしていたのさ。
全速力で走った後のような、荒い呼吸を二人はしている。
「まあ…無事に帰って…来たの…なら…いいだろう…」
「俺らも…気球を…すま…なかった…な。」
そして、友情が芽生えた?
「ラックさん、私たちも本当にすみませんでした。」
「フー…」
ラックさんは、呼吸を落ち着けるために深い息を吐く。
「あぁ、シンにしっかり弁償させるから、大丈夫だ。」
「俺?」
「当たり前だ。今後このようなことがないように、より頑丈に作る。さらにいろいろ付け加えるために、何とかしてもらおう。」
ラックさん、楽しそうなんだけど。
そして、シン王子は顔を引きつらせている。
「もしかしてお前、狙っていただろ。」
「なんのことだ?もしかしたら、気球が無事に帰ってこない可能性もあるかもしれないと思っていただけだが?」
「確信犯じゃないか。」
ラックさん、やられても、タダでは倒れない…
やり手だなぁ。
「これで、よりいい気球の研究と開発が出来る。」
「俺はいいとは言っていない。」
「シン…お前はいいと言うしかないんだよ。この気球を、提出してみろ?お前は何をしていたか言わないといけないんだぞ?いいのか?」
今回の旅が、正直に言えないことをラックさんは分かっていたんだ。
ん?
それっておかしくない?
もしかして、ラックさんは、すべて分かっていて、私たちに気球を貸してくれたの?
「ラックさん、もしかして私たちが何をしに行ったのか、知っているんですか?」
「…なんのことだ?」
フッと笑ったラックさんに、これは絶対に何をしに行ったのか知っているなと確信する。
もしかして、どういうことをするのかも分かっていた可能性があるな…
ラックさんも月の約束について何か知っていたという事?
だとすると、気球が無事で帰ってくることはないとも知っていた…?
「お前、騙したな。」
「騙したとは人聞きが悪い。」
ちょっと待って。
これ、また二人の言い合いが始まりそうなんだけど?
「それにラック。お前、知っていたのなら、俺に教えろよ。」
「いやいや、何言っているんだ?何の話をしているか分からないし、もし、俺が知っていたとしても、お前、俺の話なんか聞かないだろうが。」
「…確かに。」
話を聞かないのかい…
そこは、聞こうよ。
聞いたらここまで、苦労しなかっただろうに。
「まぁ、シン。お前はしっかりと掴み取って来たんだろ?」
シン王子を指さし、ニヤリと笑う。
指さされたシン王子は、一瞬キョトンとした顔をして、ラックさんの言葉を理解したように、ニヤリと笑う。
「当たり前だ。この俺が、掴み取れないはずないだろ?」
「相変わらず、偉そうだな。」
これって、気球のことは許されたと思ってもいいのかな…?
でも、シン王子に、これだけは言っておかないと、ダメだよね。
「シン王子?」
「あ?」
「前も言いましたが、まだ掴み取ってませんよね。そのことを言うのであれば、アルビナ令嬢をシュルーク家とクラト公子からしっかりと奪い取った上で言ってもらっても?いいですか!あくまで、今回の件は、過程の段階です。目的は、アルビナ令嬢との約束を果たし、婚約、のちに結婚をすることでしょ?いまから、そんなに浮かれていてどうするんですか?」
「おい…」
ネロの声が聞こえたような気がするけど…
「本番は今日の夜ですよ?クラト公子とアルビナ令嬢の婚約発表のパーティは。クラト公子も、だいぶ巻き込まれていますし、アルビナ令嬢もシン王子のことを待ち続けていますよ?今回も、アルビナ令嬢を目の前にして、ヘタレ爆発しない様にしてくださいね。そんな感じでは、いくら手に入れたとしても、納得なんてしてもらえないんですから。いいですか、シン王子?」
「チヒロ…お前、眠いんだろ?」
「…え?」
なんのことだろう?
「シンに対して、言いたい放題だったな?」
「……え?私、何言ってた?」
顔を引きつらせて、ネロに聞くと、後ろの方からシン王子の声。
「チヒロは俺を罵倒するのが好きだなぁ。」
罵倒?
そんなことないけど?
「言いたい放題だったな。」
嘘でしょ?
「まぁ、その通りだし、あとはシンが頑張るしかないんじゃないか?」
…やばい。
口から滑るように、デロデロと言葉が出て行った記憶しかない。
「あの、シン王子?」
「しっかり俺らのこと見届けろよ?」
うわ…いい笑顔。
「はい…がんばります…」
眠気など吹き飛ぶほどに、私は冷や汗をかきながら、頷くしかなかった。
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