239話 脱出方法は…変形します?
いやぁ…備えあれば憂いなしとは、よく言ったものだよね。
まぁ、備えていたわけだはないけど、ちゃんと思考はしていたからオッケー。
あたりを見回し、目視で広さと距離を見る。
「おい…何をやっているんだ?」
「こういう可能性があることは、何となく分かっていたので。」
今度は気球の周りをウロチョロ、ウロチョロ。
「こういう可能性というと、道が消えていることか?」
「はい。満月の日にしか現れない道が、日を跨いで、私たちの帰りを待ってくれているとは思えないので。滝の水が流れ始めている可能性はあるだろうなと。」
「じゃあ、何かあるのか?」
「いえ。」
私は、シン王子の問いにきっぱりと否定する。
何か準備するにしては、時間も材料も足りない。
「おい…」
「だからと言って、何も考えていなかった訳では無いので。何通りか考えていた方法で試せそうなものを、今考えているんですけど…」
ロープを使って登るって案はないだろうな。
どんな原理なのか分からないけど、満月の日以外、たどり着けないみたいだし。
…あれ?
そもそも、たどり着けない理由って、道を見つけられず永遠に下に降り続けたから。
上に登るのは、そんなに難しくないのかな?
流れ落ちる水の横から上を見上げると、明るい空が見えた。
そりゃそうだ。
滝の下方向は、どのくらい続いているか分からないけど、上方向は有限に決まっているのだ。
だって、ここまで降りてきているから。
それにしても、エンゲルストラートの滝の幅は、結構あるのにギリギリ穴から上が見えるのが奇跡だな。
この場所にこういうものがあると知っていれば、いかにもここから出入りできますよと言われている気がする。
行けるかな…?
いや…
落ちる危険性を考えるとないな。
それに、この滝横、私が体をひねって、ようやく上を見上げることが出来る幅しかない。
気球を通すのは無理だし、人が出るのも危険だろう。
それに、ロープをかける場所もないし。
他には、周囲の岩を削って滝横に出るというのも考えたけど、こういう大事な自然物を壊して脱出するのは気が引けるんだよね。
岩の壁に触れてみると、削れなくはないんだけど、それってどうなんだろう。
うーん。
この方法は、あまり得策ではないなぁ。
気球を見終えた私は、今まで来た道を戻り、小さな海の穴を見上げる。
あそこは確実に、地上に繋がっている。
滝の水も、エンゲルストラートよりも量はなく、水圧もこちらの方が弱そうだな。
満月の日じゃなければ、ここからの出入りがありえそうだな、くらいにしか思っていなかったんだけど、可能性あるかな?
「問題は、ここの細い通路から、どうやって小さい海まで気球を運ぶかということと、そして、あの穴の幅から気球を出せるかという事なんだけど…」
こればっかりは、やってみないと何とも言えないな。
「この通路から小さい海の水際まで気球を運べばいいのか?」
「え?」
「しっかりと口から出ていたぞ。」
おおぉ…
考え事をまとめている時って、どうしても口からボロボロと零れるように言葉を発してしまうんだよね。
私の呟きを聞き、シン王子は私に聞いてきた。
「そうですね。一番、可能性があるかなと思っている方法が、この細い通路から、小さい海へと気球を出し、小さい海へと流れ落ちている水の穴から、地上に出る方法です。」
「なるほどな。」
「どう思います?」
「フッ。行けるだろ?」
シン王子は、一度気球の方を見てニヤっと笑う。
悪い顔しているなぁ。
気球は、もうごめんなさいをしよう。
ラックさん、本当にごめんなさい。
気球に手を合わせて、お辞儀をする。
「ネロとチヒロは、先に小さな海の方まで行っておいてくれるか?」
「わ、わかりました?」
言われた通り、先に小さい海の方まで行く。
気球をここまで運ぶなら、三人で押した方が良くない?
「大丈夫かな…?」
「シンにも何か考えがあるんだろ。」
二人で今来た道を見つめていると、ギュインと変な音がした後、変な機械がこっちに迫ってきた。
「よし、何とかなったな。」
シン王子?
ということは、その変な機械は気球ですか?
「さらにコンパクトになった一人乗り用の夜用気球だ。どうだ?」
変形は二段階ではなく、三段階だったのかい…
どこのロボットアニメだよ…と私はそう思わずにはいられなかった。
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